君と過ごす七日間
□眼鏡をはずす夜
1ページ/1ページ
「これは一体…?」
ただいま!と帰ってくるといつも「おかえり」と出迎えてくれる忍足くんの姿はなく家の中も暗いので慌てて電気を付けて彼を捜す。
もう元の世界へと帰ってしまったのだろうかと不安な気持ちに駆られる。すると、私の部屋の扉が少し開いていた。もしかして、と思い電気を付けて部屋に入る。
「良かった、居た…」
忍足くんは私のベッドで眠りこけていた。私はどっと疲れながらも彼がまだ居てくれたことに安心した。
「…んあ、…千紗さ……?」
「そうだよ、忍足くん。遅くなってごめんね」
ただいま、と声を掛けると忍足くんは寝起きの掠れた声で「おかえりなさい」と言ってくれた。くそ、いい声だな。寝顔も寝起きも可愛いかった。まさに眼福です。
「明日で約束の日だね。」
「せやな、なんだか寂しいわ」
「そうだね。」
2人で作った遅めの夕食に舌鼓をしながら食事をする。忍足くんとの食事もこれで最後だと思うとかなり寂しくなる。彼がくる前はそんなこと思わなかったのに。
「なあ、最後に俺の我儘きいてくれへん?」
「ん、なあに?」
食べ終わった食器を片していると忍足くんが話しかけてきた。私がそう返すと帰ってきた言葉は「一緒に寝たい」だった。
なんでも明日居なくなるのに別の部屋で過ごすなんて寂しい、と。
「いいよ」
「よっしゃほな、一緒のベッドで寝よか」
「あー…うん。」
嬉しそうな忍足くんに私は果たして眠れるだろうかと心配したが、最後だし眠れなくてもまあいいかと思うことにした。
「千紗さんは会社でモテるん?」
洗面所で化粧を落として、自分の部屋で肌のケアをしているとお風呂に入っていた忍足くんが戻ってきてそう訊いてきた。
「モテないよ。と言うか私の会社は女性ばかりだから」
「そーなん?なんや安心したわ」
「安心って?」
「やって、千紗さん、かわええから」
「可愛い、ね。そう言ってくれるのは君だけだよ。……って、あー、忍足くん、まだ髪濡れてる。風邪引くよ、こっちおいで」
湯上がりの忍足くんを招いて、髪を乾かしてあげる。弟がいたらこんな感じなのかな?
「弟扱いせんといて」
「年齢差からしたら君は弟でしょう?」
「まあ、千紗さんが姉貴だったらええなと思うときもある。うちの姉貴、人前では猫かぶるからな。」
「けど、仲はいいんじゃない?」
「あかんて、命がいくつあっても足りんって謙也と話したこともあったし」
「そうなんだ。……よし、乾いたよ」
「おおきに。せや、眼鏡ありがとうな」
忍足くんが掛けていた眼鏡を外す。そして、私にその眼鏡を掛けさせる。
「え?」
驚く私に忍足くんの顔が迫っていて頬に柔らかな何かが触れる。
「ほんまは唇が良かったんやけどな、また会った時にするわ」
「ちょっ、え、は?」
「好きやで、千紗」
俺の気持ち忘れんといてや。
そう言って忍足くんは眠りに就いて、朝にはもう居なくなった。
To be continued.