secret moon
□とある女子生徒の月の君
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月のような君。
もし、君に会えたら、
いろいろな話を語り合って
その温もりに触れたい。
そう思うのは自分だけだろうか。
どうか、もう一度だけでもいい。
君に会いたい。
そうして自己満足でもいい、
会えなかった分の募った想いを君に告げよう。
「なあ、その"月の君"ってモデルおるん?」
「勝手に覗き込むの、やめてくれない?」
文章を書きながら机に向かう姿勢でいると声を掛けられた。見上げると忍足侑士が立っていた。自分の言葉にさも気にしていない忍足侑士は前の空いている椅子を引き、こちらに身体を向けて腰掛けた。
おい、こら。無視か。
「で、これモデルおるん?」
「いるよ。いますよ。女々しくて悪いですか。」
半ばやけクソで言うと忍足侑士は首を左右に振った。
「いや、ただ」
「?」
「ほんまに好きなんやなと思うて」
「はあ?」
「一種のラブレターやろ、それ」
書きかけのノートを指差して笑う忍足侑士。あ、ああ。ラブレター。その言葉にボンっと音が鳴るくらい顔が熱くなる。多分鏡を見なくても分かる顔が真っ赤だ。そんな自分を見て更に笑う忍足侑士。
「笑わないでよ」
「すまんな、なんかこうゆう恋愛もええなぁと思うて」
「……べ、別に好きと言うわけでは」
自分でも苦しい言い訳をしていると思う。忍足侑士もそんなのはお見通しだと言うように微笑む。
その姿を見て、思い出した。
誰かが言った言葉。
跡部様が氷帝の太陽ならば、
忍足侑士は氷帝の"月"と。
「………。」
「なんや?」
「なんでもない」
「ふーん」
「忍足くんはさ、」
少しだけ、本当に少しだけ忍足侑士に興味が湧いた。自分の言葉に忍足侑士は「なんや?」と言う。
「高いところって好き?」
「……嫌いやな」
「そっか」
少しだけ落胆した。
「月の君って高いところ好きだったん?」
「昔ジャングルジムの頂上を制したところを見たことがあるんだ」
「へえ、おもろいな」
「すごいかっこよかった」
「せや、ソイツの名前って覚えてへんの?」
「それが知らないんだよね。クラスが違ったし」
「そっか」
完全な片思いやなと言って忍足侑士は考え込むように目を細める。自分はその様子を見ていたが、また視線をノートに移す。片思い。そうだ。私は月の君に話しかけたことがない。
だけど、一度だけ話したことがあるんだ。恒例行事のお泊まり会。眠れなかった自分とお手洗いに行っていた君で。それが月と夏目漱石の話題だった。
♪〜♪〜
「あ、休憩時間終わってもうた」
10分って早いもんやなと忍足侑士はそう言って席を立つ。椅子を借りていた主が帰ってきてお礼を言っていた。
そして、忍足侑士は自分のほうに向いてにっこり笑って「ほな、またな」と自分の席へ帰っていく。
それを見送ると、前の席の主がこちらに振り返り尋ねてきた。「忍足と仲がいいのか?」と。
その言葉に「普通だよ」と返した。
あ、そういえば小説もどきの話題は一回も触れなかったな。まあまだ全然書けてないから良いんだけど。と、言うかラブレターって言われてしまったけど、このまま書き続けてもいいんだよね?
自分だけの物語を。
To be continued.