secret moon

□惹かれ合った赤い糸と君
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あの三日月の夜。
その光に照らされた君の横顔に一目惚れだった。

うっすらと覚えている記憶。
君が居てくれたから現在の自分がいる。
生きることを諦めていた自分。
君の存在が現在を生きる自分の糧になった。

ありがとう。

まだまだ会えなかった分、
君に伝えたいことがあるんだ。

現在、伝えたいのは最近気になる人が出来たんだ。その人は自分と君の話が気になるらしい。恋愛話が好きなんだって。

ふと、思うことがあるんだ。
近寄り難かった君に少しだけ雰囲気が似てる気がするんだ。君が現在大きくなっていたらどんな人になっているのだろう?

「会いたいなぁ」

小さく呟いた。
君は現在どこで何をしているのかな?

お父さんの仕事の関係で引っ越しを何回も繰り返してるって言ってたけど。

「自分のことなんてとうの昔に忘れてるかな」

自分で言ったくせに泣きたくなってきた。ああ、なんて自分はこんなにも弱虫なのだろう。君はこんな自分の姿を見てどう思うのかな?

そんなことを考えながら机の上でうつ伏せになっていると自分の発した言葉に対しての声が落ちてきた。


「忘れてへんよ」

「……えっ?忍足くん?」

見上げると、彼が。
忍足侑士が部活着でこちらを見下ろしていた。自分が最近気になっている人。


「忘れてへん。せやから泣かんといて」

ぽんぽん、と。
私の頭に触れる手。
先程まで部活をしていたと思われる、
温かい手。

「忍足くん、部活は」

「ん、忘れもん。取りに来た」

「忘れ物?」

「そや、そしたら泣いとるからびっくりしたわ」


「ごめん」

「謝らんといて」

なんやったら俺の胸で泣いてもええんやで、とにこりと笑う忍足侑士。自分の物悲しい雰囲気を吹き飛ばしてくれているのだろうか。

「彼女じゃないのに甘えていいの?」

「俺はお嬢さんと帰りたくてここに来たんや。せやから忘れもん言うのはお嬢さんのことやで」

「ば、バカっ……!?」

思わず立ち上がって忍足侑士の胸へと激突した自分。そうだった。忍足侑士との身長差は24センチだった。

「なんや自分から飛び込んでくるやなんて積極的やなぁ」

ここぞとばかりに自分の背中に腕を回して抱き締められる。耳元ではドクドクっと言う彼の心臓の音が聞こえてくる。


「忍足くん、緊張してる?」

「せやね、気になる女の子が俺の腕の中におるから緊張くらいするわ〜」

「……。」

忍足侑士の言葉に、
自分は彼の背中に腕を回した。
そんな自分に「ほんま、直球やな、お嬢さん」と、忍足侑士はまた自分の頭を撫でる。

黄昏時に、教室で、二人っきり。

しばらくの間、
忍足侑士に甘えて、
抱き合っていた。


嬉しかった。
慰めでも「忘れてない」と言われて。

まるで、彼が"月の君"なんじゃないかって思えるくらい。


「おっ!今日は三日月やな」

「そうだね」

すっかり遅くなってしまった帰り道、忍足侑士と肩を並べて駅へと向かう。何気なく空を見上げると三日月。


「そーいえば、なんで夏目漱石は「I love you」を『月が綺麗ですね』って訳したんやろうな?」


To be continued.
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