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□天魔集
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レイト・ハロウィンイベント編

【本編】

ハロウィンパーティー当日。
待ち合わせに指定した場所にはすでに私が作った衣装を纏った彼が待っていた。
私は弾む気持ちを隠し切れず彼を呼んだ。

「雨宮先輩!」

「おまえ……か?」

「え、そうですよ?」

先輩が驚いたように私を見つめる。
正確には私の纏う、チホちゃん渾身の力作である衣装に釘付けである。

不思議そうに見つめる私の視線に耐えきれなくなったのか先輩は照れ臭そうに言葉を口にする。


「いつもと装いが違うので……
何と言うか……その……に、似合ってるぞ……」

「あ、ありがとうございます……!
雨宮先輩も似合ってますね……!!」

「そうか?自分ではわからないが
おまえが作ってくれたものだからな」

俺で着こなせているのなら、嬉しいと優しい笑みを私に向けてくれる。

雨宮先輩の優しい言葉と笑みに嬉しくなった。


「雨宮先輩のことを考えながら作ったので
そう言ってもらえると、私も嬉しいです!!」
「そ、そうか…」

私の放った言葉に雨宮先輩の頬がまた赤く染まった。

私は慌てて口元を押さえた。けれど、
一度声に出した言葉は戻ってこない。

つい、思ってることを口にしちゃった……
恥ずかしい……

自分の頬も僅かに熱いことに気付いたが、
雨宮先輩の咳払いでなんとか気を取り直した。


「コホン……ところで、この服なのだが
何の衣装なのだ?」

「神父さまの服のつもりだったんですけど
今考えると天魔の雨宮先輩に神父服って変でしたかね?」

「神父か……天魔には宗教的な概念が無いので
俺もあまり人間の宗教には詳しく無いが
こんな事でもなければ着る機会が無いのは確かだな。フッ……お前といると思いもよらない事をできるな」

「それは私も同じですよ?雨宮先輩といると、
今まで自分でも知らなかった気持ちになったり
すごく忙しいんですからっ」

「そうか」

「ふふっ、そう言えば、雨宮先輩は神父さまについてあまり詳しく無いって言ってましたけど
どんなことする人かは知ってるんですか?」

「そうだな……日本では多くの人間が結婚式教会で挙げることが多く、その際、神父が神に今生ふたりが別れること無いように誓いをするような事を、何かの文献で見かけた記憶はある……」

「確かにそういうこともします!雨宮先輩は本当に色々知ってますね」


「いや、そうでもない。それより、衣装も良い出来だが、講堂の装飾もとてもいい出来だな。お前の力を借りたと汐崎先生がおっしゃっていたが、お前のおかげで皆楽しめているようだ」

「だとしたら嬉しいです。じゃあ、私たちも楽しみましょう!」

「そうだな。ん? これは……指輪の形の菓子か?琥珀糖で作ったもののようだな」

「わぁ、すごいかわいい!」

「なあ」

「え?」

雨宮先輩が私の左手を取りそっと薬指に指輪のお菓子をはめる。驚く私に雨宮先輩は満足気に笑みを浮かべて言った。

「お前の花嫁衣装に良く合うな。お互いの衣装から推測するに神父である俺が指輪をはめても良いシチュエーションという事だな」

「え……っと……あの……これ、花嫁衣装じゃないです……チホちゃんが妖精の衣装だって……一応羽も付いていますよ……?」

くるりと雨宮先輩に自分の背中を見せて、
妖精の羽があることを確認してもらう。

それを目のあたりにすると、
先輩は「なっ…」と固まった。

「あと、指輪をはめるのは神父さまじゃなくて
花嫁のだんなさんの新郎です……」

そう補足すると、
雨宮先輩はさらに驚いたようだ。


「そ……そうなのか!?真っ白いドレスなので
てっきり神父と新婦でかけているのかと……神父の役どころも勘違いしていたということか……」


腑に落ちたという雨宮先輩に
私も慌てて言い繕う。


「で、でも嬉しかったですよ?なんかプロポーズされてるみたいな気がしてドキドキしました!!」

「プっ……!?」

「雨宮先輩、顔赤いです……」

「う、うるさいっ…そういうお前の方こそ真っ赤ではないか」

「せ、先輩が照れるから…私まで照れちゃったんですよ!」

「ム……しかしあのような事言われて平常心でいられるはずがないだろう……。いや、やはり俺の柄では無かったと言うことだな……」


もういいから、早く食べてしまってくれ、と言う雨宮先輩に、私は改めて彼に嵌めてもらった指輪を見つめた。

そして、私は言った。

「賞味期限ギリギリまで食べませんよ?」

「なっ……新手の嫌がらせか?」

「もうっ!うれしいからに決まってるじゃないですか……!」

自然と上がる頬の熱と口角。
そして左の薬指に嵌めてくれた指輪を彼に見えるようにする。

すると彼は普段他人に見せることのない、
もしかしたら私だけしか知らない表情を浮かべた。

「そ、そうか……嬉しいのか……」

「……結局二人とも顔真っ赤なままですね……」

「そうだな……だが不思議と嫌な気持ちでは無いな」

「ふふっ、私もです」

お菓子のように甘く、
ふわふうわとして温かい、そんな気持ち。

きっと、あの【禁断の果実】を口にしなかったら、現在、見つめあっている雨宮先輩と出会うことも、こんな幸せな気持ちになれることも知らずにいただろうな…。

そして私たちは、パーティーが終わるまで
ふたりで楽しんだ……。


END

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