番外編
□April fool2022
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「忍足くん、私、引っ越しするんだ」
今までありがとう、と微笑む彼女。
そんな彼女に動揺する俺。
頭の中では混乱がおさまらない。
なんでや、なんでやねん。
「な、なんでやねん。なんでいきなりそないなことを」
絞り出せた言葉はその一言だった。
かなり勇気を振り絞ったと自分で思う。
すると、ふっと息が漏れる音。
それは彼女の方から聞こえた。
彼女を見ると笑いを抑えたような表情。
それを見てはっとなった。
「自分、はめよったな」
「なんのことかな?」
「アホ、今日が何の日か。
わかってんのやろ」
見事に騙されたわ、と俺が正直に白状すると彼女はますます笑みを深くする。その表情はバレちゃったかという感じや。
はあ、不覚にも可愛ええと思う。
「葉月ちゃんなんか嫌いや」
「!」
「嘘つく子は可愛ない」
お、侑士くん?と今度は顔を真っ赤にする。
ああ、惚れた弱みやな。
正反対なことを言う俺。
そやけど、
今日はその日やから許してくれるやろう。
それに先に仕掛けてきたんわ、
俺やないしな。
「ゆ、侑士くんのいけず。大嫌い」
「顔真っ赤して言う言葉やないで」
「嫌い嫌い嫌い、だっい嫌い」
「俺かて、お前が嫌いや」
素直になれない二人。
そんな二人が正直になれる日。
今日はApril fool。
END