番外編

□忍足くんとお花見
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「今日は晴れてよかったね」

君を意識、いや好きになったのはいつだったのかは詳しく覚えていない。なんてどこの恋愛小説のくだりだろうか。

「そやな。…葉月ちゃん」

初めて君を見つけた時もこんな天気が良くて青空に薄紅色の桜の花が映える日だった。跡部との初試合を遠目で見ていた君。他の子とは違う何かを感じて俺の目には一際目立って見えた。

君がパスケースを落として、俺が拾って声をかけた時にものすごく驚かれて名前を聞きそびれた。拾った際に見た駅の名前、俺と同じ最寄駅。毎朝同じ車両に乗らないかと声を掛ける瞬間をはかっていた。どこか期待をしていたが、あれきりだった。

2回目に君を見かけた時は、アメリカの遠足でおんなじテニス部の滝と手を繋いで一緒に笑い合いながら買い物していた。

それを見て俺は心底落ち込んでいる自分に気付いた。そこで初めて君に恋焦がれていることに驚いた。

滝の彼女。

俺は心に秘めた気持ちを隠して君をからかったし、意地悪もした。だけど、君が滝の彼女じゃないと否定する度に安堵する自分もいた。好きな子に意地悪するなんてほんまガキやなと自分でも呆れた。

毎年贈られたたくさんのチョコの中に君のチョコが混ざっているのを見つけて思わず笑った。最初は義理やと思った。やって、滝にもチョコを渡していたから。

なんで俺の時だけこそこそ隠れるようにチョコを贈るのだと思いながらもお返しは何がええのか思い悩んでいる自分をおかしいと思った。この付かず離れずの関係で満足だと君が滝の彼女で俺はその男友達でいいとさえ思ったんや。

やけど、そんな俺に転機が訪れた。
球技大会で倒れている君を見て血の気が引いた。岳人に頼んで滝を呼んでもらって、俺は頭をあまり動かさず慎重に君を運んだ。君の身体は心配になるくらい軽かった。そして、滝に言われた言葉。

『俺、風宮さんのこと好きだよ。忍足には負けない。』

負けず嫌いな自分に火がついた瞬間やった。そこからは君との距離を縮めて友人になった。君は俺の行動に凄い驚いていた。自分でも驚いた。君を手に入れたいと、そして君にもう一度俺の試合を見て欲しいと。

天は俺に味方した。
南の島の合宿で親友以上恋人未満の関係を打破。全国区の合同学園祭では晴れて恋人同士になった。そして、現在も、


「まさかオーストラリアでデートなんて思わなかったよ。よく三船監督たちが許可してくれたね。」

「まあな。」

きれい、とリッフィー・フォールズを眺める君。俺が今訪れたいと思ったデートスポット。ギリギリここは桜が観れるというある意味奇跡に近い場所や。まだまだ勉強不足であんまりここでの知識は乏しい。

それでも、

「葉月ちゃん、こっち向いて」

「えっ?わ、」

大好きな君をここに連れてこられて良かった。引き寄せたぬくもりを一旦離す。すると、ぶすっと頬を赤らめて恥ずかしそうな顔と目が合う。

「ほんまきれいやな。」

「侑士くん、桜見てないでしょ」

「まあな、桜より葉月ちゃんやな、今は」

俺の言葉に彼女は「いけず」と呟いた。そして「大好きだよ」と俺の胸に顔を埋めた。ああ、ほんまかあいらしいな。

俺の大事な花。

END

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