番外編
□おしゃれ
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「風宮さんってさ、おしゃれに興味ない?」
「えっ?急になにかな?」
滝くん、と私の机に顎を乗せてこちらを見上げる彼にそう問いかける。先程まで別の話をしてたはずなのに何故その話題になるのかわからない。
「忍足のことを好きなら女子力磨かないと」
「待って、そこで彼の名前を出さないで」
「恥ずかしがってる場合じゃないよ」
「いや、恥ずかしがってなんか……」
ただここは3年C組の教室だ。
教室にはまだ人がちらほらと残っている。
こんなところで忍足くんの名前を出したら注目されてしまう。
「付き合ってるのならもっと堂々としないと身が持たないよ?それでおしゃれの話だけど」
焦っている私をよそに滝くんはまた口を開く。付き合ってる、確かに忍足くんとは付き合っているけれど。
「女子力磨かなきゃいつか飽きられちゃうかもよ?」
「………。」
「それで別の子のことが好きにな」
「た、滝くん!」
そこまでは言わないで。
私が恐れていること。
いつか私に飽きて別の子のことを好きになる。侑士くんを信じてない訳ではないけど、そうなってしまうこと。
滝くんに言われること、本当に現実になってしまうじゃないかと不安になる。
「ど、どうすればいい?」
「まずはスカートを忍足好みに短くしてみるとか」
これから忍足と帰るんでしょう?と言う滝くんのアドバイスを受けてスカートに手をかけた。脚が見える程度に調節して、ネクタイを緩めて、おさげにしている髪を解いてポニテにしてみる。
「いいよ、風宮さん!それで、このネックレスをつけて」
「『forever hope』?」
滝くんに付けてもらったネックレスにはそう刻印されていた。滝くんは満足げに笑い、「それじゃ、風宮さん。また明日ね」と去っていく。
「すまんな、風宮さん。榊監督に呼ばれてしもうて…」
「あ、ううん、大丈夫」
帰ろっかと腰掛けていた椅子からガタっと立ち上がって、脇にかけていた鞄を取って見上げると目を見開いた忍足くんと目が合う。そして、彼は叫んだ。
「な、なんやねん、その格好は!?」
「えっ?」
「えっ?やない!な、なんてかっこしとるん!?」
誰に何を吹き込まれた!?とがしっと両肩を掴まれた。そして、いそいそと私のスカートをいつもの丈に戻し、ネクタイもキュッて締めようと手をかける。
「なんや、このネックレス」
「あ、さっき滝くんが…」
「滝か、……(あ、アイツ!よくも俺の葉月ちゃんを!)」
「ゆ、侑士くん。やっぱ似合ってなかった?」
「アホ、似合う似合わんの問題やない!(滝、明日絶対練習でしばいたる!)」
これも滝に突き返したる、とネックレスが奪われる。そして、彼は元通りになった私を抱き締めて囁いた。
「俺は葉月ちゃんしか見えてない。せやから葉月ちゃんも他の男に隙を見せんでや」
「う、うん。」
嫉妬を剥き出しにする彼に私は首を縦に振ってそう頷いた。
この後、雑貨屋さんに寄って私好みのペンダントを買ってもらい、駅前のイルミネーションを見に出掛けた。
END