番外編

□特別な人
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「なあ、千紗さん」

「なあに?」

「なんで俺のこと好きになったん?」

「好きになるのに理由なんているの?」

質問してんの、俺なんやけど、と不貞腐れたように私を見つめる忍足侑士。その表情も可愛い。そんな黒曜石な瞳に見つめられて私は「うーん、そうだな」と考え込む。

「そんな考え込むくらい悩むんか?」

「全部かな」

「悩みに悩んで全部かいな、大雑把やな」

「本人を前にして告白する方が恥ずかしい」

「好きなのに恥ずかしいんか」

「今日はやけに絡むね、一体どうしたの?」

「なんとなく聞いてみたくなってな。」

で、答えは?と真剣な表情をして話を戻す忍足くん。私はまた考える。そんな私に忍足くんはますます不満そうな顔をする。そして、自分の気持ちを吐露し始めた。「天才って言われてるからか、それとも顔か?」と。

そんな忍足くんに驚いて思わず口を開けてぽかーんとする私。が、悩んでいるのは私ではなく彼自身というのがなんとなくわかった。

「誰かに何か言われたの?」

「……。」

質問した私から顔を背ける。
どうやら図星らしい。
最推しが悩んでいる!
由々しき事態だ!!


「そうだなぁ、忍足くんの好きなところはあえて言うなら負けず嫌いなところ!」

「負けず嫌い?俺がか?」

私の言葉に忍足くんが不服そうな声をあげる。それでも私は言葉を続ける。

「負けず嫌いで、努力家で、他人の評価なんて気にしない。本当はボケたいのにボケられなくてツッコミ担当になりがちで人に優しくて、挑発的で心の中は熱血で詰めが甘いって言われてそれでも大事な相手には自分の心を閉ざして戦って」

「ちょ、それ褒めてるん?」

「だから全部って言ったじゃん。君のことを本気で好きって子が現れたら私は喜んで君の幸せを願う覚悟だってあるんだから」

最推しの幸せ。
それは私にとっての幸せだ。
それぐらい私にとって君は特別な人。
そんな私の力説に忍足くんは目を見開いて驚いた表情する。そして、笑った。


「なんや、それ」

おかしい、と腹を抱えて笑う。
目に涙を浮かべながら。

「やっぱ、千紗さんはおもろいな」

「光栄だね」

さて、じゃあジャスミンティーでも淹れようかと席を立つ私。そんな私の背中に「おおきに。ありがとう」と声を掛けられた。
私はニヤけながらティータイムの準備を始めた。

END

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