番外編

□夏祭り
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「うわあ!お店がいっぱい!」

神社の境内に入って、出店が並ぶ参道を眺めながら歩いていると「ちょい待ち」と手を掴まれる。振り返ると呆れた顔をする忍足くんがいた。

「なあに?」

「何って、自分子供かいな。」

「中学生はまだ子どもだと思うけど。」

「あんな、そうやなくて。」

「?」

「1人でずんずん進んで迷子になったら大変やろ、それにかわええのに乱れてまうわ」

浴衣、と少し屈んで私の浴衣を整えていく忍足くん。それを見ていたカップルの一組が「可愛い兄妹」とくすくす笑って通り過ぎて行った。


「どうしよう、兄妹だって」

「気にしたらあかんで、妹」

「もう忍足くんのいけず!」

すまんて、と笑う忍足くん。はぁ。一応、私たち付き合ってるんだけど。私の言動が子供っぽいから大人な忍足くんと釣り合わないのかなぁ。他のカップル達は楽しそうに腕を組んで石畳を歩いていく。高校生くらいの人たちかな。羨ましい。けど、腕を組んで石畳を歩くだなんて私には恥ずかしくて出来ない。

そんなことを思っているとソースの匂いが鼻孔をくすぐった。

「あ、たこ焼き!」
「あ、言うとる傍から」

しゃーない子やな、と言う忍足くんの言葉を背に私はたこ焼き屋へ向かう。

「おじさん、たこ焼きお願いします!」
「おっちゃん、たこ焼き頼むわ!」

「「えっ?」」

重なる言葉。
誰?と思い、声の聞こえたほうを見る。相手もこちらを見る。「あ、風宮のねーちゃんや!」と。

「四天宝寺の遠山くん」
「あ、ケンヤから電話や」

私の後を追いかけてきた忍足くんが謙也くんからの電話を取ると呆れた顔して「お前んとこの小僧なら俺の彼女とおるで」と場所を教える。どうやら遠山くんは四天宝寺のみんなと離れてしまってここに来たらしい。

「やっぱ祭りはたこ焼きやわ!」

「うーん、やっぱり忍足くんのたこ焼きが好きだな」

「え、メガネのにいちゃん。たこ焼き作るの美味いんか!?」

「まあ、美味いほうちゃうかな」

「美味しいよ」

ええな!ねーちゃんの一押しやん!わいも食べてみたいなぁ!と言う遠山くんに忍足くんは機会があったら作ったるわと微笑んだ。遠山くんは約束やで!と小指を出して指切り。

指切りを終えると、「金ちゃん!あんまりずんずん進んだらあかんって言うたやろ!」と四天宝寺のみんながやってきた。

「あら、侑士クン。風宮ちゃんと浴衣デートやん。ええな、アタシも神尾くんと」

「浮気か!死なすど!」

「先輩ら空気読んで下さい。すいません、うちのアホが迷惑かけました」

ほら、遠山もお世話になったんやから頭下げ、と財前くんが遠山くんの頭に手をやる。しかし遠山くんは反省した様子もなく「ざいぜん!メガネのにいちゃんのたこ焼き美味いんやて!機会があったら食べさせてくれるって!楽しみやわ!」と興奮気味に話す。財前くんはうるさそうに「ハイハイ、ヨカッタナァ」と返す。

ちなみに白石くんと謙也くんは忍足くんと何かを話していた。が、忍足くんは俯き気味にこちらへとやってきた。忍足くんの背後からは「気張りや!」や「上手くやれよ!」と言う声が聞こえてきた。


「忍足くん?」

「風宮さん、もう行くで」

四天宝寺の子達とそこそこ話して別れると私は忍足くんに引っ張られて石畳を歩く。神社の裏へと進み、ひらけた場所に出た。と同時にヒューと言う音が聞こえ、パアァン!と光の花が咲いた。一つが咲くと次々に打ち上がり咲き誇る。驚く私に忍足くんは「間に合うて良かったわ」と呟いた。


「そのウグイス色の浴衣似合ってる」
「あ、ありがとう」

お礼を言うと忍足くんは私の顔を見つめるとふっと笑い、「ソースついとる」と言った。その言葉に私は恥ずかしくなって、赤くなる顔を俯かせて「ど、どこ?」と言うと顎をくいと引っ張られて、

ちゅっ

「!?」
「俺以外の男にそないな顔見せたらあかん」

光の花が咲き誇る中、忍足くん、いや

「侑士くんのいけず」
「アホ、お前が可愛すぎんねん」

妖艶に微笑んだ。
花火はまだ始まったばかり。

END

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