番外編
□忍足くんと恋みくじ
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「忍足くん、福みくじ引かない?」
神社で参拝した後、
学業成就のお守りをそれぞれ買って忍足くんにそう声を掛けた。彼は「運試しにええな」と頷いた。
「あ、私、大吉だ」
「……吉。」
くじを引いた私の反応とは違い、忍足くんは小さくそう呟いた。
「……。」
「……。」
「ま、まあ運勢より書いてある内容が大事だよね」
「そやな」
私の言葉に忍足くんはそう言ってくじが結んである場所まで歩いていく。どうやら内容も彼にとっては微妙なものだったみたいだ。
そんな忍足くんの背中を見つめた後、私は視線をある場所に向ける。『恋みくじ』だ。好奇心で恋みくじの箱に200円を入れて穴の中にあるおみくじを引いた。
「中吉か……あっ」
「なんや、これ?恋みくじ?」
おみくじを結んできた忍足くんが帰ってきて、私が引いた恋みくじをぺらっと取り上げた。
「なんや、蠍座が相性いい?A型は避けよ?」
つらつらと内容を読み上げていく。
私はそんな忍足くんを見つめるしかない。
忍足くんはすべて読み上げた後、「なんや葉月ちゃんも運勢は良くても内容はええもんやないなぁ」とおかしそうに笑う。
「忍足くんが笑った」
「なんやねん」
「さっきまでなんかむすっとしてたよ?」
「さっきはさっき、今は今や」
これ結びに行くで、と私の恋みくじを持ってまた先程向かったおみくじがたくさん結んである場所へと向かう。が、立ち止まったままの私に気付いたのか、振り返って「ほら、行くで」と促す。そんな彼に慌てて駆け寄る。
「忍足くんは恋みくじ引かないの?」
「引かんでも、俺の恋は俺が決める」
運試しなんかせんでもええんや。と、そう言った。寒さのせいか彼の横顔が薄らと赤くなっていく。それにな、とこう呟いた。
「今、こうして好きな子と一緒におるしな
」
隣に並んだ私の左手を取って握る。いわゆる恋人繋ぎ。驚く私に忍足くんはまたむすっとした顔をした。が、マフラーに顔を埋めている。か、かわいい。
「なにそんなニマニマしとんねん」
「いや、愛されてるなと思って」
「うっさい。それ以上なんか言うたら塞ぐで。口。」
「……。」
「急に黙るなや」
「いや、だってここ神社だし」
そう言う私に忍足くんは、はあとため息を吐いて「後で覚えとき」とそう言い残す。私はその言葉の意味がわからず微笑んでいたが、あとで侑士くんの反撃に後悔することになるとは思いもしなかった。
END