【私家版】宇宙戦艦ヤマト

□第2話 号砲
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 日本の地下にある、防衛軍本部。
 世界各国の状況が絶えず、報告されているが、それらはやはり、厳しい現実を報せるものばかりであった。
 交信不能になった国、モニターになにも映されなくなった国、暴動を通り越してパニックになっている国、サヨナラ、とたどたどしく別れを告げ続けている国…
 日本においても時折暴動が起き、治安部隊が出動することが日々、増えつつあった。
 なによりもじわじわと、放射能は地下へと侵攻を続けており、この地下都市への到達まであと一年、と目されていた。
 それらのデータを沖田と共に見やりながら、藤堂司令は作戦参謀に問いかけた。
「『ヤマト』の進捗状況はどうなっている」
「はっ、予定より3%の遅れがありますが、鋭意作業進行中であります!」
「司令。もう一刻の猶予もない。航行しながらでも出来る作業もあるだろう。もはや、行くしかない」
「しかし、沖田くん、君の健康状態は…」
 度重なる戦闘は、沖田に病を発症させていた。だが、沖田は首を横に振る。
「わしは行く。この途方もない遠い旅は、わしの命を奪うかもしれん。しかし、このまま座しているよりは遙かにいい。たとえわしが倒れたとしても、ひとりでもいい、わしの志を継いでくれる者がいれば、きっとやり遂げてくれる」
「…沖田くん…」
 身は衰えていても、沖田のその眼光は青年のそれ以上に苛烈にして鮮明、若々しく獰猛な、それでいて真摯な決意に満ちていた。

「やれやれ、やっと、か…」
 島は思わず呟いた。
 訓練生に過ぎない身分で、しかも許可なく宇宙艇を発進させ、勝手に戦闘に参加して、なおかつ宇宙艇を損傷させ、自分たちも軽傷とはいえ、傷を負った。
 当然、教官も上官も激怒し、本来ならば服務規定違反として放校を含む厳罰を課せられるのが常である。
 しかし。
「…まったく、お前たちは悪運が強いな」
 ため息をつきながら、教官は修了証をふたりに手渡した。
「これは…!」
「…卒業が早められた。つまりお前たちはもう訓練生ではない。正式な士官だ」
 卒業式もなにもないがな、と教官は続けた。
「だが、だからといって、上官の命令もなしに戦闘に参加したことは許されることではない」
 一週間の外出禁止と校内の清掃。
「軽すぎるが…今の状況が状況だからな…」
 本当にお前たちは悪運が強いな、とつくづくあきれたように何度も言われた。
 外出禁止はむしろ負傷の治療期間、校内清掃は士官学校の寮を出る準備期間も兼ねていた。
 あの卒業が前倒しになるという噂は事実であったかと思いながら、馴染んだ校内のあてがわれた場所を清掃し、いずれ下される配属命令に備えて寮にある私物をを整理、処分する。
 島は荷造りを終えてそれらを実家に送る用意を整えると、ふと、古代のことが気になった。
(あいつはどうするんだろうな…)
 自分には、両親も、弟もいる。だが、古代は唯一の肉親である兄を失っている。
(外出禁止も解けたことだし、どこか気晴らしになるようなところにでも連れていってやるか)
 ところが島が部屋を出たとたん、教官が声をかけてきた。
「島。古代とともに司令部から出頭命令が出たぞ」
「出頭命令が?」
 別の教官に呼ばれて出てきた古代と顔を見合わせる。
「お前ら、他にもなにか、やらかしたのか?」
「いや、そんなことは…なあ、島?」
「は、はい、心あたりはありませんが」
 少し強ばっているふたりに、教官は吹き出した。
「冗談だ。校門に迎えのエアカーが来ている。所属命令かもしれんぞ。すぐに行け!」
「は、はい!」
 教官も意地が悪いなあ、などと言いながら走り去るふたりの背中に、教官は敬礼を送っていた。古代と島はそのことも、教官の瞳が僅かに潤んでいることも、もちろん知らずにいた。

 エアカーには、先客がいた。
「あ、これは軍医殿」
 司令部の病院で出会った佐渡医師が、酒瓶を片手に乗り込んでいたのだ。
「おう、お前等も呼び出されたのか。ええと、古代と島じゃったな」
「は、はい」
 敬礼しようとしたふたりを、佐渡は手を振って制した。
「ああ、堅苦しい挨拶なんぞええから、早く乗れ…と、こりゃ、アナライザー、もちっと場所を空けんかい」
「あれ?」
 言われて、佐渡医師だけでなく、なにやら赤い大きな丸っこいロボットがエアカーに陣取っているのに気がついた。
「少々オ待チ下サイヨ、ット」
 とぼけた声でロボットは自分で頭部を持ち上げて、手足を胴体に内蔵すると浮かんだ頭部をそのままエアカーのボンネットに接着させた。
「なんですか、このロボットは」
「アナライザーというてな、病院で使っておったんじゃが、着いて行くというて聞かんもんじゃからな」
「病院ナドデハ私ノ真価ガ発揮デキナイノデス。雪サンノイナイ病院ナラナオノコト」
「へ?雪さん、て、あの…」
「そう、森雪じゃ。こいつもお前等同様、彼女に夢中でのう。彼女も呼び出しを受けて病院を出ていったもんじゃから…」
「ムム、オマエラモトイウコトハ、らいばるカ」
「ライバルって…」
 やたらと人間くさいロボットに、古代も島もあきれて思わず顔を見合わせる。
「さあさあ、乗った乗った。遅れるとどやされるぞ」
「は、はい!」
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