セカンドヤマト

□第12話 解放
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 戦車隊の殆どを撃滅したものの、まだ幾つかは生き残りがおり、敵は不利を悟って回れ右をして逃げ出し始めた。
 それを見て、斉藤たちの分捕り戦車がそれを追う。
「野郎、逃がすかよ!」
『斉藤、深追いするな!』
 古代の声がヘルメットの通信機越しに響く。
「わかってるよ。けど、敵の基地を叩かなきゃ、あのテレサとかいう女の通信が入らないんじゃねえのかよ」
『…それはそうだが…とにかく、用心して深追いだけはするな、逃げるものを追う必要はない、地上の様子ももう少しヤマト自体を降下させて調査する、だから…』
「へいへい、わかったよ、艦長代理殿!」
 なおも言いつのろうとする古代をあしらい、斉藤は戦車を走らせた。
 逃げるものを追う必要はない、それはそうかもしれない。だが、斉藤やその部下たちの騎兵隊員たちには、別の想いがあった。
 何人の仲間が傷ついただろう。
 何人の仲間が命を散らせただろう。
 昨日、いや、ついさっきまで、生きて、笑って、共に飲んで食って騒いでいた者たちが、今はもういない。
(このままで終わらせてたまるかよ!敵の大将首を獲らなきゃ、死んでったあいつらに、顔向けできねえ!)
 砂塵を蹴立てて、斉藤は敵の戦車隊の生き残りを追い続けていった。

 斉藤たちがそう思うのも無理はないほどに、空間騎兵隊員たちの被害は甚大だった。
 いかに訓練された白兵戦を生業とした者たちの重火器類を用いての戦いといえど、相手は戦車である。
 負傷者は数知れず、そしてもの言わぬ死者となったものも数知れず、遺体と言うにはあまりにも小さな、肉片と化してしまった者たちもいて、医療班員でさえ眉をしかめ、佐渡ですら沈痛な表情で、軽傷の騎兵隊員たちが運んでくるあれほど騒々しかった、だが今は無言の帰投者たちに、声をかけることなどできなかった。中には土方司令率いる『ゆうなぎ』を旗艦とした外周艦隊の救助に向かった際に、退路を確保して助けてくれた隊員の遺体に涙して手を合わせる衛生兵もいた。
 その様子に、古代も真田も胸を詰まらせる。誰かのヘルメットだけを暗い表情で大事そうに抱えてくる隊員や、名前の刻まれているコスモガンだけを抱えてくる者もいて、そんな彼らもまた、いつものやかましさは消え失せて、ただ戦友の死に衝撃と悲しみとを感じていることが察せられた。
「…艦長代理」
 騎兵隊員のひとりがおずおずと、大きな体が一回り小さく見えるほどの殊勝さで、もう共に騒ぐことのできない動かぬ仲間たちを見やりながら古代に話しかけてきた。
「こいつらを…できたら、地球へ…帰らせてやってもらえませんか…」
 艦乗りであれば宇宙葬が通例である。ガミラス戦役においても、多くの戦死者たちは宇宙へと還っていった。
 だが、空間騎兵隊は、やはり『地上』の陸戦部隊である。虚空ではなく大地へと還ることこそが最後の望みなのであろう。
「わかった」
 古代は短く返答して大きく頷くと、冷凍カプセルを積載した救命艇の降下をヤマトに要請した。

 一方、分捕り戦車で敵を追いかけていた斉藤たちは、はるか彼方に敵の基地らしき建物を発見していた。
「ようし、一気にぶっ叩いてやろうぜ!」
 だが、ここが敵地であり、地の利はあちらにあることを、次の瞬間に思い知らされる。斉藤の分捕った戦車が岩陰から砲撃を受けて、はずみで窪地になかば横転するような形になってしまったのだ。
「いってぇーっ!畜生!」
 ほうほうの体で斉藤たちが戦車から抜け出すと、岩陰から一台の戦車が再び砲撃を仕掛けてきた。
「野郎っ…!」
 使い物にならなくなった分捕り戦車からなんとか脱出してそちらを見れば、その砲撃してきた戦車は他の戦車よりわずかに砲塔が長く、戦車自体も少し大きい造りとなっているのが見て取れた。
 と、その戦車の機銃座から今度は隊員たちに向けて掃射が始まる。戦車を楯になんとかしのいだが、このままでは
いずれ機銃の餌食になる。
「こっちは俺に任せて、お前らは基地に向かった連中たちと合流しろ」
 斉藤の言葉に、隊員たちは顔色を変えた。
「隊長、それはいくらなんでも…!」
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