セカンドヤマト

□第15話 別離
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 地球帰還へ向けて、ヤマトクルーたちは各々がそれぞれの場所で補修作業やチェック作業に追われていた。
 わけても、機関班と工作班は目の回るような忙しさであった。
 航行のみならず、ワープ、およびヤマト最大火力、波動砲の要である機関部では、徳川機関長の指示の声がひっきりなしに飛んでいる。
「エネルギーコンデンサーに異状はないか?タキオンタービンも入念にチェックするように」
「機関長、エネルギーカウンターに異状が見られます!」
 見れば、機関班員が示したパネルは確かに反応していない。
「ふむ…コントロールチューブの反応パイプがおかしいようだ…すぐに予備パイプに取り替えろ!」
「はい!」
 指示を受けた班員が走って行ったと同時に、伝声管マイクから古代の声が響いてきた。
『機関部の整備状況は、今、どこまで進んでいますか?』
「60パーセント、といったところだ。もう少し時間をくれ」
 機関部に何かあれば、それはそのままヤマトの危機となる。慎重を期したとしても、それは当然であり、逸る心はあるが、60パーセント、という数字はその繁忙さからみれば優秀であった。
「相原、各部門の整備班のチェックはどうなっている」
「コスモタイガー隊、整備完了、現在、演習を行っています」
 第一艦橋からも、縦横無尽に飛び交い、いかに相手の背後を取るか、また逆にこちらの背後を取られぬようにするか、という本番さながらの演習がコスモタイガー隊の隊長、加藤の指示の下、繰り広げられているのが見えた。
「レーダー班、整備状況40パーセント」
「…遅いな、急ぐように伝えろ」
 ヤマトの目とも言うべきレーダーに不備があっては、遅れをとるどころの話ではない。
「了解です」
「よし、次に、砲塔チェック」
 古代が指示すると、砲塔はゆっくりと、だが確実に動き、上下左右の誤差を細かく修正できるところまでできてはいるようだ。それを裏付けるように砲塔室から『整備順調、チェック75パーセント!』と砲術長の南部の張り切った声が聞こえてきた。
「分析班、情報処理班はどうなっている?」
 第二艦橋で白色彗星の動向を真田と共にチェックしている新米が
「白色彗星、前面重力場、7万キロを確認。進路変わらず、速度変わらず!」
 と報告するのに、真田は
「傲慢な奴…」
 と呟いて、ひときわ鋭い眼光をパネルに映る彗星へと向けた。
『分析班、チェック、現在70パーセントまで完了』
『コンピュータチェック、異常なし、完了』
 雪の声がコンピュータ室から作業完了の報告を告げる。
「よし、相原、各機関へ急ぐようにもう一度連絡しろ」
 と言い置いて、古代は右隣を見やった。そこにはどこか呆然として、何も手のつかない様子の島が座ったままでいる。
 その代わりに航海班のチェックを一手に引き受けている太田が、どこが気遣わしげに、作業の合間に島をちらちらとみていた。
(…一体、俺たちがいない間にテレサと何があったんだ?)
 これが振った振られた、などといった浮ついたものなら怒鳴りつけてそれで終了だが、生真面目な島に限ってそれは有り得ない、と訓練学校以来の長い付き合いからも古代は断言できた。
 ひとり残るテレサを案じて、ということも考えられたが、あのテレザリアムというテレサの宮殿には、航行能力もあるようであったし、もしかしたら小型ながらもワープすら可能であるかも知れない。いざとなれば、脱出も可能だろう。
 だが、島によれば、テレサはヤマトにも白色彗星帝国にも与しない、テレザートから離れるつもりもない、と言ったという。
 あれほどの力を持ちながらどうして、というのが大きな疑問であったが、古代はなんとなく、その答を島は知っている、というよりはテレサが島を信用して彼にだけ打ち明けたのではないか、と思った。
 そしてそのことを島はひとり、抱え込み、悩んでいるのではないか、と。
 我ながら気の長い方ではない自分に比べれば、島はやはり、忍耐強い。直情径行の自分を宥めるのもいつも島であったし、自分が独断専行しようとすれば、止めてくれる。義理堅く、そして、他人の秘密をペラペラと喋るようなタイプではなく、むしろ相手の悩みや苦しみを我がことのように捉えて、同じように心を痛める、人に寄り添って支えようとする、責任感の強い男でもあった。
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