【私家版】宇宙戦艦ヤマト

□第2話 号砲
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 三人と一体を乗せたエアカーは軍部専用のエアカーラインを使用して、高速で走り続けた。
 ボンネットにいるアナライザーはインジケーターをしきりに明滅させながら、エアカーが南西の方角に向かっていることを察知した。
(司令本部デハナク、噂ニ聞イタ軍ノ大工場ニ向カッテイル可能性…99%…)

 ようやく着いたパーキングエリアに降り立ったとき、古代と島は、その高い天井と無数のパイプライン、忙しく働いている整備兵の多さに驚愕した。
「すごいでかさだぞ、これは…」
「想像ができない規模だな…何を造っているんだろう」
「ここが配属先になるのか?」
「そうかも知れない…」
 物珍しげにあちこちに視線を走らせていると、アナウンスの声が響いた。
『古代、島、両士官、佐渡先生、10番エレベーターにお乗り下さい』
「あれ?どこかで聞いたような声だな」
「とりあえず、行ってみよう」
 アナライザーは自分で自分を組み立てつつ「音声認識完了。雪サンノ声ダ。シカシナゼ私ノ名前ヲ呼ンデクレナイノカ」とぶつぶつ言いつつ、閉じられようとした10番エレベーターの扉を掴んでその体をねじ込んだ。
「一気に狭くなったのう…」
 佐渡がぼやくのに、アナライザーのインジケーターに赤い色がきらめく。
「置イテ行コウトシタカラコノママデ行ク。こんぱくと二ナッテヤラナイ」
「…ロボットのくせに拗ねてやがる」
「どこまで人間くさいんだ、こいつ」

 エレベーターが着いたそこは、一転して船内を想起させる様子のものへと変わっていた。否、そこはまさしく船内であったのだ。
『こちらの主幹エレベーターへどうぞ。艦長がお待ちです』
「艦長…?」
 と、すぐそこにあるエレベーターのドアが開く。それは堅牢な、隔壁としても使用できるであろう厚さで…
「おい島、これはもしかして戦艦の…」
「古代。ここは、戦艦の艦内なのかも…」
 ほぼ同時に口を開いたふたりが同じ結論を出すのに、佐渡もうんうん、と頷く。
「どうやらわしらはここでひと仕事することになりそうじゃのう…」
 まもなく三人と一体は最上層らしき階に着いた。アナライザーが先に降りて、その頭部をくるくると回しつつ、周囲を伺っている。
「ムム、雪サンノ愛用シテイルころんノ匂イガスル」
「なんで知ってるんだそんなこと」
 古代と島があきれるのに、アナライザーは人間であれば肩をそびやかしているであろう態度で告げた。
「私ハ天才。ソシテ好キナ相手ノでーたナラ把握シテオクノガ男トシテノ嗜ミ。オ前等モぷれぜんとヲ選ブ時ハ相手ノ事ヲ考エルダロウ?」
「はあ」
 気抜けた返事しかもはや古代と島には出来なかった。
 そのアナライザーがまっすぐに向かったのはこれまた重厚なドアの前であった。
 そのドアのプレートには艦長室、との表示が為されている。
「艦長…室…」
 古代は緊張しながらドアを三回ノックしてみた。すると「入れ」と、まぎれもなく沖田艦長の声が返ってきた。
「入ります」
 古代を先頭に、島と佐渡、アナライザーがその後に続く。古代と島は中に入って思わず立ちすくんだ。そこには沖田の隣にあの森雪が微笑して並んで立っていたのである。
「佐渡酒造、出頭しました」
 いつもの飲んだくれ医者とは思えぬ落ち着いた様子で佐渡が敬礼する。我に返った古代と島も慌ててそれに倣った。
「古代進、出頭しました」
「島大介、出頭しました」
「私ハあならいざーデス」
 沖田は古代と島に頷き、アナライザーを見やった。
「佐渡先生のところで何度か見たロボットだな」
「着いて行くと言うて聞かんかったもんで…アナライザーという名前はダテではなく、分析能力は高いが好奇心が人一倍というかロボット一倍強いというか…」
 佐渡の紹介に、沖田はふむ、と唸る。
「分析能力か…では、アナライザー、人間を構成している元素は何かね」
「ハイ。水素ガ一番多クヲ占メテオリ、63%、次ニ酸素ガ多クテ25・5%、以下、炭素、窒素、かるしうむ、燐ノ六種類ヲ含メマスト99・81%トナリマス。続イテ、かりうむ、硫黄、なとりうむ、塩素、まぐねしうむ、鉄ノ六種類デ合計0・188%、アトハ亜鉛、銅、弗素、沃素、もりぶでん、こばると、コレラノ合計ガ0・002%デス」
「よろしい。君にもここで働いてもらいたい」
 アナライザーは頭部インジケーターを様々な色にして、喜びを表している。
「ヤハリ見ル人ガ見レバ私ノ価値ガワカルノダ。サスガハ沖田艦長、不肖コノあならいざー、誠心誠意、務メサセテ頂キマス」
 しゃちほこばってアナライザーも敬礼をする。
「では、佐渡先生、アナライザー、医務室にご案内しますわ」
「ハイハイ、雪サンノ案内シテクレル所ナラ、タトエ火ノ中水ノ中風呂ノ中。佐渡先生、行キマショウ」
 ロボットらしい能力を見せながら、あっと言う間にまた人間くさくなったアナライザーと佐渡を導いて、雪は艦長室を退室した。
「さて、古代、島、両名とも、この艦にて責任者として任務についてもらう。これから、わしの指揮下に入る」
「はっ!ありがとうございます!」
 やはり、これは戦艦であったのか。配属先はここであり、そしておそらく、森雪も病院勤務からここに配属となったのだろう。それを思うと古代と島の心はより弾んだ。
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