【私家版】宇宙戦艦ヤマト

□第2話 号砲
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「敵戦艦を補足!」
 その報告に、島は再びレーダーに向き直った。
「レーダー反応、きわめて強し!」
 古代も再びパネルに指をかける。
「メインスクリーンへ切り替え!」
「距離、8万キロ!」
「主砲、準備完了!」
「測定修正、右2度!上下角マイナス3度!」
「敵戦艦よりミサイル!」
 ちらり、と古代が沖田を見やると、沖田は黙って頷いた。
「迎撃ミサイル、発射!」
 古代の指示に、ミサイルが空を切って敵ミサイルを迎え撃つ。
「目標、敵戦艦、軸線に乗りました!」
「よし、主砲、発射!」
「主砲、発射!」
 沖田の命令を復唱した古代の声の後に、再び号砲が沖田の執念のように敵戦艦まで伸びていく。
 そして敵戦艦をも、主砲は貫いたのだった。

 第一艦橋にはしばらくの静寂のあと、一気に歓声が上がった。何度も苦渋を、苦杯を舐めさせられ、味わってきたガミラスの攻撃を完全に退けることが出来たのだ。
 初めての指揮操作を体験した古代と島も、汗を浮かべつつ、ほっとした顔を見合わせて、どちらからともなく歩み寄り、がっしりと手を握りあった。
「立派でしたわ」
 聞こえてきた声に、ふたりははっ、とした。いつの間にか第一艦橋にいた森雪が、賛辞と微笑でふたりを労ってくれたのだ。
「森さん!」
「ありがとう!」
 古代も島も、森の言葉と笑顔に緊張も疲れも吹っ飛ぶ思いがした。なにより、自分たちの働きを知ってくれたことが嬉しかった。
 沖田はそんなふたりを微笑ましく思いながらも、声をかけた。
「古代!島!」
「は、はいっ!」
「どうだ、これが…ヤマトだ」
「えっ!?」
 メインスクリーンに映る外に、見覚えのある光景があった。あの時、宇宙艇で坊ヶ岬まで駆けつけて、不時着した後、なぜか惹かれるものを感じた、赤錆びた、鉄屑にしか見えなかった戦艦大和が…
 だがつい先ほどガミラスを屠った主砲部分は、土も錆びも絡み着いて枯れていた藻屑などもすべて振り払い、不気味なほどに頼もしく輝いている。
「古代、島、よく聞け。この宇宙戦艦ヤマトは、戦うために改造されたのではない。本来は、人類が絶滅する前に、ノアの箱船のように、選ばれた若者や動物を乗せて地球を脱出させるのが目的だった。しかし、それは出発と同時にガミラスに発見されるおそれも、また、たとえ見つからずに逃げ切れたとしても、その旅路は永遠に続くかもしれないものだった」
 だが、それはあの通信カプセルにあった、残る音声情報の解析の結果、新たな使命を帯びた艦へと甦らせることが決定した。
「この宇宙戦艦の目的は、人類の未来を、地球そのものを救うことにある。ただ、その道は遠く、困難なものになることは明らかだ。だが、なんとしても成し遂げなければならん任務だ」
「地球そのものを…」
「救うことが目的…」
 この、放射能にまみれた地球を救う?
 途方もないものに思えたが、続く沖田の言葉はもっと途方もないものだった。
「宇宙戦艦ヤマトの目的、その任務を達成する為の旅程は、14万8000光年の、人類の誰も経験したことのない旅だ」
「じゅ、14万…」
「8000光年…」
 気が遠くなるような数字だった。だが、沖田は静かに、だが心の裡に熱いものを込めて続けた。
「しかし、波動エンジンさえ完全に動けば、必ず行ける。いや、必ず行く。そして地球に戻り、この星を、この母なる地球を、元の美しい星に戻してみせる!」
「元に…戻せるんですか…?」
「そんな方法が、あるんですか?」
「そうだ。その為にヤマトは行き、そして必ず帰ってこなければならない。それも、一年以内に。放射能が、地下都市を汚染してしまう前に。つまり、往復29万6000光年の旅になる。それがどれだけ困難であろうと、ガミラスの妨害があろうとも、すべてを乗り越えて果たさねばならない…」
 呆然としている古代と島に、沖田は信じられないのも道理だが、と言った後、強い調子でこう続けた。
「おとぎ話のようだと思うか?だが、あの火星で殉難死を遂げた少女は、たったひとりで、片道ではあるが、同じことを成し遂げようとしたのだ。我々に、地球を救う方法を伝える為に」
「!」
 古代と島は、胸を衝かれた。うら若い身でありながら、彼女はそんな旅を、孤独な旅をして、武装すらしていない宇宙船で、地球まであと一歩というところまで来たのだ。
 不幸にも宇宙船の損傷、墜落という事態に見舞われたその最後の瞬間に彼女が掴んでいたのは、あの通信カプセルであったことを、誰よりも古代と島は知っていた。
 そうだ、今目の前にいる、森雪と変わらぬたおやかな少女に負けてはいられない。地球を救えるのならば、なにがなんでもその旅を成功させてみせよう。
 古代と島は、頷きあった。
「たとえ目的が違っても、兄の死を無駄にしたくはありません。きっとやり遂げます!」
「彼女が命をかけたのなら、俺たちもこの旅に賭けます!」
 ふたりは敬礼して沖田を見上げた。沖田は満足そうに頷いた。
「何度も言うが、我々はヤマトを戦う為に甦らせたのではない。地球と人類の未来とを担う艦なのだ。だが、もし戦うことがあるとしたら、それは勇気ある説得と思え」
「はいっ!」
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