【私家版】宇宙戦艦ヤマト

□第2話 号砲
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「では、今のうちに、メインエンジンとヤマトの最大火力、艦首波動砲について説明しておこう。ふたりとも、ついてこい」
 沖田が第一艦橋を後にするのに、古代と島も慌ててついていく。
 主幹エレベーターで下降し、到着したのは巨大な円筒型の物体が横倒しになったようなものが偉容を誇る、機関室であった。
「これが、メインエンジン…」
「その一部だ」
「…」
 一部と言われて古代と島は思わず顔を見合わせる。
「この先の艦尾方向にあるのがエンジンのコントロールルームだ」
 艦尾方向に移動すると、同じように大きな円筒型の物体が横倒しになったような場所で、機関整備の人々が忙しそうに動き回っている。
「徳川くん」
 沖田の呼びかけに袖を捲りあげて作業していた初老の男性が振り返る。
「沖田艦長」
 古代と島が敬礼するのに、徳川と呼ばれた男性も敬礼を返す。
「初めまして。わしは機関班長、徳川」
「古代です」
「島です。ここがメインエンジンのコントロールルームですか」
「そうじゃ。沖田艦長、この波動エンジンというものは、いやはや、すごいシロモノですな」
 徳川の手がコントロールパネルの隅をぽんぽん、と叩いて、次に撫でる動きに変わる。
「強力じゃが、まだわからんことも多い。まるで駄々っ子のようじゃが…なんじゃろうな、手間をかけるほど、一緒にいるほどに、愛着がわいて、その度にどう扱ったらいいのか教えてくれる。わがままな子供か孫のようじゃ」
 温厚そうに微笑む徳川に、島が尋ねる。
「徳川さん、波動エンジンとは、どういうものなんですか?是非、教えて下さい」
「うーむ、一言でいうのは難しいのう…言えるのは光速に近い航行を可能にする推進力だけでなく、武器のエネルギー源としても強力無比ということじゃな」
「では、主砲がガミラスの敵母船や戦艦に通用したのも…」
 古代は改めて巨大なエンジンを見上げる。
「そうじゃ、この波動エンジンあってこそじゃ。…これがもっと早く…いや、これは詮無いことじゃな…」
 ふと悲しげに目を伏せた徳川に、沖田は無言で先に歩きだした。
 後を追おうとした島に対して、古代はふと思いついて口を開いた。
「徳川さんは、沖田艦長とご一緒に戦われてきた方なんですよね?」
「そうじゃ」
「おい、古代?」
 歩みを止めて、島が振り返る。
「教えてくれませんか、沖田艦長のことを、本当のことを」
「古代、お前、何を言ってるんだ?」
「兄さんのひとりも救えなかった人に、地球を救えるんでしょうか、それに、冷静というより冷酷な気がして…でもその一方で、激怒しやすい人でもあると、さっき知ったんです…どちらが一体、本当の沖田艦長なんですか!?」
「…古代…そうか、君は古代守くんの弟さんだったな」
 徳川は労るような表情と声音でこう続けた。
「あの戦いで、肉親を失ったのは君だけではないんじゃよ…沖田艦長のたったひとりの息子さんも、あの時の戦いで亡くなってしまったんじゃよ…」
 冥王星へと向かう途上、木星宙域で待ち構えていたガミラス艦隊。次々と失われていく僚艦…もたらされた悲報。
「味方駆逐艦『みねかぜ』、爆沈!」
 沖田は無言だったが、後ろに組んだ手が震えるのを徳川は見ていた。『みねかぜ』には沖田の息子が砲術士官として乗り組んでいた。
「古代くん。あの人は、万にひとつでも可能性を発見したら、それを信じて沈着冷静に行動する人だ。それが、男というもんじゃよ…」
 呆然としている古代にそう徳川は言いおいて、再び作業に戻っていった。
(知らなかった…!沖田艦長の息子さんも…そんなそぶりなんか全然…!)
 自分が兄について尋ねた時、沖田もまた、肉親の死の悲しみに人知れず耐えていたというのか。
 その場に居合わせていた島も、その時のことを思い出してうなだれる。
「…島、行こう」
 古代は沖田の後を追って歩き始める。まだ気持ちのすべてが整理された訳ではないだろうが、古代の表情が少しばかり変わったことに、島は気がついた。

 沖田は今度は艦首方向へと二人を導いていた。途中、大きなクレーンを備えた工場そのもののエリアに立ち寄る。と、気むずかしげな表情で製図スクリーンに見入っている長身の男性に沖田は声をかけた。
「真田くん」
「沖田艦長」
 きびきびしした動作で、敬礼する、真田と呼ばれた男性に、古代と島も敬礼をする。
「紹介しよう。ヤマトの技術、工作の責任者、真田くんだ。波動砲の開発者でもある」
「古代進です」
「島大介です」
「真田志郎だ。技術、工作班の班長を務める。よろしく頼む」
「こちらこそ。ところで、波動砲とは、さきほど艦長がおっしゃった、このヤマトの最大火力とのことですが…」
 真田が頷く。
「波動エンジンを武器に転用したものだ。テストはまだしていないが、航行中の波動エンジンそのものよりエネルギー量を使用する。…使わないで済めばいいとは思うが、ガミラスがどういった妨害をしてくるかわからんからな…」
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