セカンドヤマト

□第10話 采配
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 ややあって、震動が収まるのに、古代は「脱出したか?」と思わず口にしたが、
「まだだ、第二の支流がある!」
 と真田が鋭く答える。
「最大噴射、続行!両舷全速!この支流も突っ切る!」
 島は額の汗を拭うこともなく、そう言い切って操縦桿を握りしめ、前方を見つめる。
 同じくこちらはパネルで前方を警戒していた太田が、切迫した声をあげた。
「前方に敵艦隊発見!」
「なにっ!?」
 言葉とは裏腹に、やはりいたか、と古代は思いつつ、「メインスクリーンに切り替えろ」と指示した。
 果たして、そこには密集隊形で待ちかまえている、大小の戦艦が映し出された。巨大なミサイルを携えた戦艦と、その護衛艦、といったところだろうか、それもまた迎撃ミサイルを搭載している。
「距離と方角は?」
「距離、左舷前方11宇宙キロ、宇宙気流の対岸で密集隊形のまま待機しています!」
 打てば響く、といった素早さで雪が報告するが、突然「あっ!」と雪が声を上げた。
「敵艦隊の後方に、惑星発見!メインスクリーンに拡大投影します!」
 見上げたそのスクリーンには、その惑星の前に立ちはだかるように、敵艦隊がずらり、と威容を誇っている。
「…もしやあの星が…テレザート…」
「そうだ、テレサのいる星だ」
「くそっ、俺たちを近づけさせないつもりだな!」
 島や真田の言葉に、南部が苛立って叫ぶ。
 とはいえ、迂回すれば気流へと流される。
 真正面からぶつかるには、敵艦隊はあまりにも数が多い。
「真田さん、ここから波動砲を発射したら…」
「この宇宙気流の近くで、推進エネルギーを止める訳にはいくまい」
「まだこの流れなら、突破できる。突破したと同時に波動砲を発射したらどうだ?」
 島の言葉に、同時とはいえないが、確かにいったん気流の影響を受けない空域まで移動して、それから波動砲を発射する…それしかないように古代には思われた。
「…よし、宇宙気流を強行突破してすぐに、波動砲の発射準備に…」
「待て」
 突然、古代の左隣、つまりサブパイロット席の土方が低く、よく通る声で制止した。
「この角度で発射したら、メッセージの発信源であるあの惑星に被害を与えるぞ」
「!」
 そうだ、波動砲の威力ならば、敵艦隊にも対抗し得るのは確実だが、その背後にある惑星にもなんらかの被害を与えてしまうだろう。
 基地だけを叩くつもりが、浮遊大陸ごと引き裂いた、あの破壊力。500キロを越える炎の柱を打ち倒した、あの威力。
 そしてガミラス本星を溶岩の海と大地とした、あの凄絶な光景を引き起こしさえした、おそるべきエネルギー…
「エンジン、圧力ダウン!噴射停止!宇宙気流の流れに任せて、下流に降下する!」
 土方の指示に、一同は驚愕の表情を浮かべた。
「艦長!そんなことをしたら、本流に巻き込まれてしまいます!」
 島が噛みつくように言うのに、土方は「命令通りにしろ」と、静かではあるが有無を言わさぬ声音で言い放つ。
 もの問いたげな皆に、土方は
「機関部の故障に見せかけて、時間と距離を稼ぐ」
 と言うや、腕を組んで目を閉じてしまった。
「…エンジン、圧力ダウン!」
 徳川が眉根を寄せて機関室に指示を出す。この状況では機関班員たちもその命令にはおそらく不安を抱くであろうことがわかるだけに、その表情には苦渋が見て取れる。
「噴射停止!」
 島も土方の指示に従い、呼唱してスイッチングを行う。
 たちまち、ヤマトは風に吹かれる一枚の木の葉のように気流にあおられ、巻き込まれ、激しく震動しながら空間を右往左往する。
 メインスタッフはそれぞれの座席にしがみつくようにしてその震動に必死に耐える。
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