セカンドヤマト

□第1話 通信
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 ガミラスによって一時は絶滅に瀕していた地球は、イスカンダルの女王スターシャからのメッセージと、惑星蘇生装置…その星本来の姿、世界の自然の秩序を再生し、その有り得べき存在への道筋を照らし教示する装置…後に『W.O.R.L.D』…『世界』という名を冠された装置によって蘇った。
 地上からも地下からも放射能は消え、大気と海が戻り、緑が溢れた。
 人類は驚異的なスピードで地上を再建し、貪欲に、以前と同じ、いや、ガミラス戦などなかったかのような、元の文明以上の姿を地表に顕現せしめていた。
 ガミラス戦役以前から企画、検討されてきた太陽系の惑星や衛星からの資源採掘、それに伴う開拓や開発。
 緑も残しながらも、都市部にはきらびやかな高層ビルが建ち並び、人々は地下での生活を忘れたかのように…いや、忘れてしまいたいがゆえであるのかも知れないが…豊かな暮らしを謳歌していた。

 そのためかどうか。

 『W.O.R.L.D』を往復29万6000光年の旅路の果てに持ち帰り、地球から放射能を除去し、海と大気の復元の為に世界を駆け巡った宇宙戦艦ヤマトのことを…
 人々は過去のものとしていた。
 いや、それもまた、過去のものとしたかったのかも知れない。
 辛く苦しい、絶望しかなかった頃のことを思い出したくないが為に。

 だが

 西暦2201年
 地球は、遠く遙か彼方からの危機に、再び晒されようとしていた…


「長官、進水式のお時間が迫っております」
 地球司令本部の制服を身に纏い、そう告げた森雪の声に、地球防衛軍司令長官、藤堂は手にしていた書類から目を離し、時計を確認した。
「もうそんな時間だったか」
 席から立ち上がり、長官が未決裁の書類を端末の下に差し込んでいると、雪が、ちらり、と太陽系の情報が表示されている大型スクリーンに視線を向けるのが視界の端に見えた。
 各惑星や衛星から、続々と物資が送られてくる輸送船団とその護衛艦の様子が文字表示と共に小さな光点で目まぐるしく示されている。
「…第3区船団はまだ火星付近か…」
 長官が呟いたとたん、雪の頬がわずかに紅に染まる。第3区船団の護衛艦の艦長は古代進…雪の恋人であった。
「長官、お早く、お願いします」
 もうすぐ帰還するであろう恋人との再会を楽しみにしているのを見透かされたような気がして、雪は長官をせかす。
「わかった、わかった」
 苦笑して、藤堂はしかし、進水式か、と妙に足が重くなるのを感じた。
(…ヤマトの出発時は…そんなものはなかったな…)
 そんな晴れがましいことをする余裕など、何もなかった。海も、時間も、心にも。
 だが、今は新造艦の進水式をするほどの余裕がある。それは確かに、いいことなのだろう。
 その一方で、地下にある、今はひっそりと眠っているかのようなヤマトが、藤堂にはひどく懐かしい。
「…長官?」
 そのヤマトに乗っていた、この可憐な女性ながらその苦難の旅路を乗り越えた雪が、不思議そうに見上げてくる。
「いや、なんでもない。いそごう」
 彼女にまた、あのような苦労をさせたくはないものだ、と長官は心密かに願った。

 雲ひとつない青空に、花火の音が響く。
 造船台の上には、巨大な新造戦艦が威容を誇っていた。新たな、地球防衛軍の、旗艦…アンドロメダである。
 それを前にして、演説台から、地球連邦の初代大統領の声がマイク越しに会場に響きわたった。
「地球市民の諸君、今日、この記念すべき日に、ご挨拶できることを、私は無上の喜びとするものであります…」
 長官と共に列席している雪は、青い空を見上げていた。一応、大統領の声は耳に入ってはくるが、雪にはそれよりも、この青い空が奇跡のように思えていたのだ。
「…ガミラスとの戦いは、もはや遠い過去であります。以来、宇宙の平和は続いております…」
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