セカンドヤマト

□第2話 会議
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(喉元過ぎれば、なんとやらか…)
 佐渡は海を臨む、英雄の丘と称されたヤマトの戦没者たちの慰霊の碑のある場所で、ひとり…いや、飼い猫のトラ縞模様のミーくんと共に、遠くきらめく高層ビル群を見やりながら、コップ酒をあおっていた。
「ヤマトのことを覚えておるのは、わしらだけかも知れんな…」
 つらい記憶や苦しい記憶を忘れたい、などということは、誰もが思うことだ。だが、すべて忘れてしまう、いや、忘れたふり、覚えていないふり、あまつさえなかったことにしたいなどと考えるのは、あまりにも悲しく、哀れで、愚かなことではないのか…
「切ないのう…」
 と、ミーくんが慎ましやかに、ちょん、ちょん、と前足で佐渡をつつく。
「そうか、おまえも切ないか、さあさあ、飲め飲め」
 小皿に酒を注ぐと、ミーくんはぺろぺろとご相伴にあずかった。
 今日、6日はヤマトの乗組員たちがここに集って、献花や献酒をして、殉職した戦友たちの弔魂を行った後に、盃を交わし飲みながら、お互いの近況や来れなかった者の話、あるいはイスカンダルへの旅路での様々な思い出を語り合ったりする日だ。
 地上勤務で自営業、長老格の佐渡は、欠かさずに来ている無遅刻無欠勤(?)の皆勤賞者であった。
 元乗組員たちはそれぞれに仕事を抱えているがゆえに、時間帯としては日も落ちる頃に三々五々に集まってくる。
「佐渡先生」
 呼びかけに振り向くと、そこに技師長真田志郎、通信班長相原義一、航海長島大介、副操縦士太田健二郎、砲術長南部康男、機関長徳川彦左衛門など、メインスタッフの懐かしい顔ぶれが揃っていた。
「おお、みんなよく来たなあ」
 記念碑の前に一同は整列し、真田と島が花輪を捧げる。そこへ、「おーい、」と叫びながら古代と雪が走ってきた。
「こらあ、遅いぞお!艦長代理い!」
「申し訳ありません」
 佐渡に詫びる古代に、島が声をかける。
「よう古代、久しぶりだな」
「島、しばらくだなあ、どうだ、輸送艦隊勤務は」
「宇宙の運び屋だからな。退屈でしょうがないよ」
 島も苦笑しながらそれでも久々にここに来れて、古代や雪たちの元気な姿が見られて、嬉しいようだ。
「全員、整列!宇宙戦艦ヤマトのイスカンダルへの使命の旅の途上、殉職した戦士たちの霊に、敬礼!」
 佐渡の号令に、一同は戦死者たちひとりひとりのレリーフと記念碑に向けて敬礼を行った。

 夜の帳がすっかり降りて、各々が車座になってあれこれと語らっていると、その頭上に大きく響くものが飛来してきた。
「アンドロメダだわ!テスト航海から帰ってきたんだわ」
 一同を圧し潰さんばかりの音と風をまき散らしつつ、アンドロメダは一同の頭上を悠々と飛び越えていく。
「バッカヤローっ!」
 程良く回ったアルコールで、先日の航路を巡ってのやりとりを思い出したのか、相原が立ち上がり、拳を振り上げながら叫ぶ。
「…何事もなく帰ってきたか…」
 真田がアンドロメダを見やって呟くのに、古代はあの時の妙な通信のことを思い出した。
「真田さん、火星付近で傍受した、謎の通信のことなんですが…」
「ああ、相原から受け取っているよ。それに地球の科学局でも傍受している。現在解析中だ。なにしろ、巻き添えをくって周囲の都市が停電したぐらいだから、なかなか作業が進まなくてね」
「…謎の通信?」
 島がそういえば、といった様子で話の輪の中に入ってきた。
「島、お前の輸送艦にも、妙な通信が入ってきたのか?」
 古代が尋ねると、島は少しだけ首を傾げた。
「いや、通常の定時連絡をしようとした際に、出来なかったんだ。緊急時の回路を使ってもだめで、混線しているのか、違法電波を飛ばして喜ぶ困った連中の話も聞いていたし、それの影響かと思っていたんだが…」
 結局、15分遅れてようやく通信が出来るようになったという。
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