セカンドヤマト

□第4話 発進
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 時間はここで、少し、遡る。
 その夜のうちに、適当に身の回りのものをトランクに詰め込んで、古代は海底の地下にあるヤマトのドックに来ていた。
 薄暗い灯りの中、浮かび上がるヤマトの姿。それを見つめ続けていると、やはり血が騒ぐ。
 見たところ、きちんと修復もされていて、清掃を任じられていた、と旧乗組員だった雨水の言うように、艶やかな輝きを非常灯の下で放っている。
 昇降タラップを上がり、艦内に入る。まだ薄暗い中ではあるが、早々に集まってきた乗組員たちが古代に敬礼を送ってくる。
 それらに応えながら第一艦橋へと歩を進めていった。
 開かれた扉から、足を踏み入れる。少しも変わっていない、その様子。
 まるで昨日まで使われていたように、座席やパネル類にも埃っぽさやカビくささなどはない。
 と、そのパネルが次々と発光し始め、古代と第一艦橋を照らし出す。
「驚いたかね」
 少し悪戯っぽく笑いながら、徳川機関長が現れた。
「徳川さん!」
 古代は歩み寄り、思わず握手を交わす。
「たまに来ては、ちょくちょく整備しておったんじゃよ。口の堅い、見込みの有りそうな連中には操作や点検も教えていた」
 そういえば徳川は、その経験を買われて訓練学校の機関部門の教官として後進の育成に務めている、と聞いていた。
「実地での経験に勝る訓練などないからのう…じゃから、いつでも発進できるぞ」
「ありがとうございます!徳川さんの薫陶を受けた人たちなら、間違いはないですね。鬼に金棒ですよ」
「いや、まだまだ半人前も多い。だが、ヤマトを廃艦になぞしてしまっては、沖田艦長に会わせる顔がないからのう」
 徳川と語らっていると、次々と第一艦橋のメインスタッフが集まってきた。真田、南部、太田、相原…
 タラップでは、例によって『消毒用アルコール』を抱えた佐渡がタラップを上がる若い乗組員たちを押し退ける勢いでやってきた。
「こりゃあ、わしを置いて行く気か!」
 その襟首を、アナライザーがひっ掴む。
「佐渡先生、割リ込ミハ厳禁デス」
「何を言うか!老人優先じゃい!」
 とても老人とは思えない勢いでアナライザーを振りほどくと、佐渡はすたすたとタラップを駆け上がって行った。
 その少し後に、ふてぶてしく周囲を睥睨しながら、ヤマトには似つかわしくない、濃緑の制服の一団がやってきた。
 旧乗組員たちはそれがまぎれもなく空間騎兵機甲師団と見て、こちらを鎮圧あるいは制圧にやってきたかと思ったが、彼らもまた、のしのしとタラップを周囲の好奇の目などどこ吹く風、といった様子で我が物顔に上がり込んでいくのに、ますます戸惑いを見せた。
 その間を縫って、ヤマトは出発に向けて着々と人員だけでなく資材や食料なども積み込んでいた。
 出航予定は午前11時。奇しくも長官が指定したタイムリミットより15分の余裕がある。
 だが、そんなことなど知らぬ乗組員たちは逸る心で、それでも各々の場所で、チェックを行っていた。
 だが、第一艦橋のレーダー手席と、なによりチーフパイロット席は空いたままだ。
(島…)
 なぜ来ない、と思う一方で、彼の真面目さを思うとわからないでもない。だが、やはり彼の操艦の腕は是非とも欲しい。
 ヤマトを自在に操ることにかけては、彼の右に出る者などいないのだから。
「古代進はどこにいる!」
 野太い声が、第一艦橋に響きわたった。
 思いを巡らせていた古代が振り返ると、そこに扉を塞がんばかりの大柄な男が仁王立ちになって、不遜な笑みを浮かべている。
「俺だ」
 立ち上がって、男を見据える。濃緑の制服をを着込んでいるその男は「あんたか」と言った後、にやり、と笑った。
「俺は、空間騎兵隊機甲師団中隊長、斉藤始だ」
 こちらを制圧や鎮圧に来た様子でもないが、ヤマトとは正直、縁もゆかりもない陸戦系エキスパートだ。
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