【私家版】宇宙戦艦ヤマト
□第1話 使者
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宇宙のその胎動は今も続き、途切れることはない
僅かな塵とガスという胞衣を纏い、自らの重力という宇宙においてはむしろ弱い力でそれらを引き寄せ、急速に回転しながら球体の姿を得て、『星』と呼ばれるものになり、時を重ねて幼年期、青年期、壮年期、老年期と、人と同じように一生を送り…
ある星は自らの質量に圧し潰され、ある星は自分よりも大きな星に飲み込まれ、またある星はひっそりと冷えて固まり…
またある星は膨張し四散して、再び塵とガスへと…新たな星を産み出す材料として、また星として生まれ落ちるために宇宙を漂う
宇宙は決して無音の死の世界ではない
むしろ騒々しい音をたてながら、目に見えぬ設計図と見えぬ手によって荒々しく攪拌され、泡のように、様々な星を、星団を、銀河を産み出す、芸術家の工房のような世界だ
そして
その大いなる芸術家のアトリエの如き世界を、わずかに翼を広げた天使のような優美なフォルムの小さな船が、搭乗者の確固たる意志を内包して、金色に輝きながら、ひたすらに突き進んでいた
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【完全私家版・宇宙戦艦ヤマト】
第一話 使者
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西暦2199年
誰がこのような地球の姿を予想していたであろうか
それは、火星と見紛うばかりの赤き星
青き輝きの源にして生命の母たる海は今はどこにも見あたらない
白く漂う雲もなく
当然ながら大地を潤す慈雨も
天地を揺るがし引き裂く雷鳴もなく
あれほどに過去の権力者や近代の人々が傲慢なまでに誇った建造物も見あたらず
不夜城を思わせた人々の電気の恩恵を受けた灯りもついぞ見あたらぬ星と成り果てていた
すべては、飛来した巨大隕石と思われた、大西洋沖に落下した物体から始まった。
これだけなら、木星と土星というふたつの巨大なる兄弟惑星にして地球を守護する頼もしき門番を運良くすり抜けたものの落下、とさえ見えたであろう。
だが、これで終わりではなかった。
太平洋へ、オセアニアの海へ、偶然とは思えぬその落下物は地球の70%を占める海だけではなく、残り30%を占める、すなわち人類の生活する大地へとその牙を向けた。
ユーラシア大陸を、アフリカ大陸を、南北のアメリカ大陸を、中国、ロシアの広大な大地を、南極大陸を、オーストラリアを、極東を
次々と襲い、灰塵とせしめたのである。
海は干上がり、天候は激変し、何よりも奪われていく人命や動植物は計り知れなかった。
各国は当初こそ自然現象、あるいは不幸な事故と捉えていた事態が、もはや何者かの意志の元に無差別攻撃を加えているとの見解を一致させ、地下都市の建造を国境と過去の恩讐を越えて共に手を携えて急ピッチで行った。
それと同時に、飛来してくる明らかな敵意を持った落下物の分析を行い、それが放射能と青酸ガスを含んだ爆弾であるとわかると、軍事大国を自負した国々は迎撃ミサイルの目標を他国から天より飛来する爆弾へと変え、軍事衛星も他国ではなくもっぱらこの爆弾ー遊星爆弾と呼称されることとなったーへの警戒と爆撃地予測とに使用されることとなった。
その頃になってようやく、地球は『ガミラス』と名乗る異星人からの一方的な通告を受けた。
降伏か、全滅か
隷従か、死か、と
だがすでに七分の一以下の人口となっていた地球人類には、今更降伏を受け入れたとしても、その先に待つのは絶滅であろうと思われた。
段違いの科学力と軍備をほこる、かくも冷徹な侵略者が、今更隷従を受け入れたとしても果たして僅かでも慈悲をもって生き延びさせてくれるであろうか?
人類は徹底抗戦を選んだ。
あまたの同胞の命を奪い、家族を奪い、故郷を奪い、美しい海を、山の緑を、厳しくも麗しく、恵みを与えてくれた大地を、時として脅威を、安らぎを、あるいは糧を与えてくれた動植物たちを根こそぎにした、そんな連中の言葉など信じられようか?
かくて、人々は放射能と青酸ガスから逃れて地下都市へと移住し、困窮と忍従の日々を続けている。
そんな中、唯一、三度もの原爆と水爆とによる被爆を受け、放射能への知識と対応とを早くから運命づけられていたかのような我が国、日本は、小さな国土であることが幸いしたか、地核への被害もまた最小に止まり、軍事基地を悉く破壊された各国に代わり、最後の砦たる地球防衛軍をその地下へと擁した。
ことここに至って、日本は小さな島国でありながらもその勤勉さと技術力の高さゆえに頼られ、時には欠点とされる集団指向もまた、団結して事に当たることができるという美点へと変じ、今まさに必要とされる国にして国民となったのである。
わけても、名将沖田十三率いる日本軍は、寡勢ながらも機動力に重きをおいた戦術を用いて、装甲と数に勝るガミラス軍を幾度となく退け、ついにガミラスの基地が冥王星にあることをも突き止めた。
そして冥王星基地こそが、あの憎むべき遊星爆弾の発射をコントロールしていることも。
だが。
その冥王星基地を叩き潰すだけの戦力は
もはや…残されてはいなかったのである…