恋煩い(イタチ夢)
□story1
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トントン、と歯切れの良いノックの音のあとに聞き慣れた声がドアの向こうから聞こえた。
宮澤「失礼します」
別に否定するつもりはないので「どーぞ」と言う。
部屋に入ってきた宮澤さんの手にはあるはずの御夕飯がなく、代わりにいかにも新品だ、と言っているような車椅子が握られている。
宮澤「今日から本格的に入院しますから皆さんに挨拶するため今日は食堂で食べましょうね。次回からは食堂でも部屋でも、ご希望の方でいいですからね」
ゆい「あのー…怪我?したときの記憶があまりないのでわからないんですが、どんな症状だったんですかね?」
宮澤「ちょっと待ってくださいね〜」
そう言いながら取り出したのは数時間前にも見たカルテ。本当に彼女は私の担当の看護師なのだろうか。
宮澤「えーっと…。左足首の脱臼と骨折。あと腹部から大量出血」
宮澤さんに言われて事故当時のことを思い出してきた。腕にささったままの点滴が血液にまざるように、次々と色々なことを思い出してきた。
そう。私は暗部の任務をこなしていた。足首のせいでうまくバランスがとれなくてすごく高いところから落ちたのも覚えている。でも、この腹部からなぜ血液が溢れていたのかはまだわからなかった。思い出せなかった。
宮澤「どうしたんですか?具合でも…」
ゆい「いえ、大丈夫です…ちょっと考え事してただけです。えへへ」
そう伝えると宮澤さんはホッとしたような顔をし、「では、いきますよ」といい私を車椅子に乗せてくれた。
カルテの件では看護師か疑ったか、今の手つきをみると納得せざるを得なかった。
廊下でガラガラと車輪が忙しくなっている。病院の窓にうっすらと月が覗いてるのが見えた。…いや精確にはこちらが覗いてるのだろうが…。
ぼんやりと月を覗き込んでいると後方から宮澤さんの声が聞こえた。