夢小説(短編)

□その優しさ大迷惑
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「…嫌がってるみたいだしさ。その辺で止めてあげたら?」

どこかのんびりとした声が、部屋の中に響く。

「うわっ、才蔵、いつからいたんだ!?」

驚いた幸村様の声が続き、ゆっくりと目を開けると、手を伸ばした幸村様のすぐ横に、どこか飽きれ顔の才蔵さんが立っていた。

「いつって…さっきから?」

「さっきっていつだよ」

「まあまあいいじゃない。細かいことはさ」

「何も細かくないだろう!?」

そう言い合いながらいつの間にか、幸村様は伸ばした手を元に戻していた。

取りあえず危機は脱したようで、ほっと胸を撫で下ろす。

「何か傍から聞いていたらさ、どうしても弥彦を脱がしたい変人みたいだったよ、幸村」

「な!?そ、そういうつもりは無い…!身体を拭くためにはその、どうしても着物を脱がさなければいけないだけで…」

「身体を拭くなんて、どうでもいいじゃない」

「どうでも良くないだろう!お前は弥彦に、早く元気になってもらいたくないのか!?」

「んー…。別に、どっちでも支障は無いかな」

「冷たい奴だな、お前は」

「そう?弥彦の気持ちを無視して、無理矢理着物脱がそうとしてた人に言われたくないけど」

「……!」

その才蔵さんの言葉に、幸村様は押し黙る。
それがあまりに申し訳なくて、思わず口を挟む。

「ゆ、幸村様!その…お心遣い、とても嬉しかったです。でも、申し訳ありません。この貧弱な身体を、その、他人にさらすのはどうしても恥ずかしくて…。ほ、本当に申し訳ありません!」

そう言った後、深々と頭を下げる。

「…いや、その…。俺こそ無理矢理脱がそうとして、その、悪かった…」

本当に男同士だったら、何も悪くないのに。
そう思うと罪悪感で胸が痛い。

「ほらほら、いつまで病人に土下座させてる気?」

「あ、ああ。すまない、弥彦。顔を上げてくれ」

恐る恐る顔を上げると、幸村様が寂しげに笑う。

「すまなかったな、弥彦。桶は後で取りにくるから。でも、一人でうまく拭けない時は、遠慮せずに声を掛けてくれよ?俺が嫌だったら、佐助でも来させるから」

幸村様は、何も悪くないのに。
その優しさに、自然と目が潤む。

「本当に、ありがとうございます、幸村様」

そう言って微笑むと、幸村様はどこかばつが悪そうに照れた顔を横に向け、そそくさと立ち上がる。

「そ、それじゃ、また来るな。ちゃんと休めよ?」

「はい、ありがとうございます」
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