絵付き夢小話
□才蔵その2
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止められなければ、ここにいる全ての人間を迷わず殺していたことだろう。
今の俺には、お前以上に大切な存在などいない。
危害を加えようとする者に、情けなど掛ける必要を感じない。
例えそれが、女子供であってもだ。
返り血で真っ赤に染まった自分を真っ直ぐ見つめるその瞳が、恐怖で揺れているように見えた。
「分かったでしょ?俺の手はさ、お前が思っている以上に血で汚れている」
「才蔵さん…」
「こんなに汚い手で、お前は触れられたい?抱かれたいって思う?今ならまだ――」
手放せる。
「!?」
そう口にする前に、飛び込んで来た温もりに包まれる。
返り血で汚れることなど物ともせずに、ふわりと優しく抱き締められる。
何故だろう。
ただそれだけで、真っ黒に汚れてしまった自分が、少しだけ綺麗になったような気がした。
「今更何を言っているんですか、才蔵さん。私はそんなことで汚れたりしません。だから――」
心配しないで。
ずっと、傍にいます。
小さなその呟きにふと、涙腺と頬が緩みそうになる。
「…バカだね…」
手放せない自分も。
信じ切れなかった自分も。
何よりもそんな俺を、ただ真っ直ぐに愛してくれるお前自身が。
温もりを求めるように、その身体を強く抱き締め返す。
光が闇に飲まれることだけを心配していたけれど。
光は思った以上にずっと強くて、ただ優しく、闇を照らし続けてくれる。
柔らかなその唇に、そっと口付けを落とす。
久しぶりの口付けは、濃い血の味がした。
おしまい