絵付き夢小話
□風魔
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「…逃げないの?」
「逃げませんよ。だって…」
一呼吸置いて、こちらを真っ直ぐ見つめて小姫は口を開く。
「私は、殺す価値も無いんでしょう?」
「あはは、よく分かってるね。僕のことも自分のことも」
「分かりますよ。伊達に風魔さんと過ごしていませんから」
そう言って小姫は、どこか誇らしげに胸を張る。
「じゃあ、分かっているついでに、一つ忠告してあげるよ」
少しだけ小姫を抱き寄せて、その耳元にそっと囁く。
「これ以上僕の、『大切』にならないで」
「えっ…?」
どこか驚いたような小さな呟きが、小姫の口から洩れる。
その身体を抱き締める手に少しだけ力を込めて、にこりと笑って言葉を続ける。
「そうしたら、きっと―――君を、殺してしまうから」
大切なものを、持つことは苦手なんだ。
そうなる前にきっと僕は、君を殺してしまうだろう。
殺せない位、誰よりも何よりも、大切になる前に。
おしまい