半蔵

□好きなもの
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どうしたのだろう。

まるで決闘でも申し込みそうな勢いで、小姫はまっすぐにこちらを見つめている。

何か彼女の気に食わないことでもしたのだろうか。

しかし最近のことを思い返しても、特に思い当たる節は無い。

「半蔵さん…!」

「はい、何でしょうか?」

真っ直ぐに背筋を伸ばし、彼女を見つめ返す。

何を言われても動じないよう、顔を引き締める。

「私、今更ながら、大変なことに気付いてしまいました…」

「大変なこと?」

何だろう。
忍とは付き合えないとか、そういうことだろうか?

「私……」

悲しそうな小姫の顔に、思わず困惑する。


「私、半蔵さんの好物を知りません……!!」


「は……?」

思った以上に間抜けな声が出て、ぽかんとしながら小姫を見つめ返す。

「いつもいつも、家康様の苺大福の余りで作った大福とか、皆さんに作ったお団子とか…。そういうのしか渡していないじゃないですか。改めて今日、半蔵さんに好物の甘味物を作って食べてもらおうと思ったら…知らないって気づいてしまったんです…!」

如何にも申し訳ないという顔をする彼女を、苦笑混じりに見つめ返す。

「小姫さんの作った物は、何でも美味しいですよ?」

「それは有難いのですが…。どうせ作るなら、半蔵さんの好物を作りたいんです。半蔵さんの好きな物、教えてください!」

私の好きなもの。

そう考えて、頭に浮かんだものはただ一つ。

「今の私の好きなもの、でいいですか?」

「はい!」

「それなら、小姫さんです」

「!?」

その言葉に驚いた小姫は、瞬時に顔を真っ赤に染める。

「は、半蔵さん!嬉しいですけれど、その、出来れば食べられるもので…」

「食べられませんか?」

そう言って首を傾げると、更に赤くなって固まってしまった。

ああ、いけない。

どちらかというとからかわれる方が多いから、やらない方がいいということは、重々承知しているけれど。

からかう側の立場というものが、殊の外楽しいことを学んでしまいそうで怖い。

「た、食べ物でお願いします…!」

真っ赤になりながら、そう懇願する小姫が可愛くて。
どう答えたものかと思案しながら、小さく微笑んだ。



おしまい

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