半蔵

□隠しきれない想い
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「団子の串、買ってきました」


いつもなら、その口調と声音で、それが誰かなんてすぐに分かったけれど。

料理をしながら、どこか上の空で聞いていたせいもあり、特に疑いもしなかった。
私が買い物を頼んだ人物が、買って、持って来てくれたのだと。

「ありがとうございます、才蔵さん。早かったですね」

言い終わってから振り向いて、思わずあっと声を上げる。

大量の団子の串の入った袋を抱えてそこに立っていた人物は、才蔵さんではなく清広さんだった。

「す、すみません、清広さん!清広さんが買って来てくださったのですか?」

「はい、才蔵さんに頼まれまして」

もう、才蔵さん…!

「お団子を食べたいのなら、たまには自分で串を買って来てください」

そんな私の言葉を、意外なほどにあっさりと承諾したと思ったら。
きっと始めから、清広さんに買い出しを押し付けるつもりだったのだろう。
しかも、串の数が尋常ではない。

「才蔵さん、そんなに買って来いって頼んだのですか…?」

そう問うと、清広さんが苦笑する。

「いえ、『俺が食べると思う位買って来て』と頼まれたので…。店にある分買い占めました」

一体才蔵さんは、皆にどれだけ団子大好き人間だと思われているのだろう。
勿論それは間違いではなく、事実ではあるけれど。

「確かに才蔵さんなら、何本あっても足りないですね」

「ええ。ところで小姫さん、これ、どこに置きましょうか?」

「あ、すみません、清広さん。ずっと持たせたままで。後は私が…」

受け取ろうと手を伸ばすと、軽く首を横に振られる。

「いえ、これだけの量だと結構重いので。言っていただければ、そこに運びますよ」

小さく微笑むその顔から、慌てて顔を背ける。

「そ、それでは、こちらに……」

ぎこちない動きのまま、厨房の隅にある棚の横へと案内する。

まずい。
私、赤くなっていないかな…?

ドキドキと自然と速くなる鼓動と共に、頬も熱を帯びてくるように感じてしまう。

最近自覚し始めたばかりのこの想いは、自分でも戸惑いがある分、上手く隠せる自信が無い。

そんな時に、二人きりとか無理。
微笑むとか、反則なんですから……!!

心の中で叫んだ後、小さくため息をつく。

会えて嬉しい。凄く、嬉しい。
でも一緒にいると、ドキドキして胸が苦しい。

会いたいのに、一緒にいたくないなんて。
本当、自分でも困ってしまう。

「すみません、清広さん。こちらに置いてもらえますか?」

私の示した場所に袋を降ろすと、清広さんはすぐに私の方へと向き直る。

……え?

何故かこちらに近づいてくる清広さんに、思わず後退ろうとして、すぐに背が壁にぶつかる。

「清広…さん…?」

「じっと、していてください」

な、何!?

その端正な顔が目前に迫り、思わずギュッと目を瞑る。

ふわりと、髪を撫でるような優しい感触。

静まり返った空間に、バクバクと鼓動だけがうるさい。


「……取れました」


――え?

その言葉に、そっと目を開ける。

目と目が合うと、目の前の清広さんが小さく微笑む。

「髪に、白い粉が付いていたので。もう大丈夫です」

粉…。

勘違いが恥ずかしい、というよりも。

「小姫さん?」

「き……」

「き?」

誤魔化し様も無い位、真っ赤な顔が恥ずかし過ぎて。


「清広さんの、バカー!!」


大声でそう叫んだ後、その身体を突き飛ばして駆け出した。
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