家康夢

□好きだから
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「あーあ。ほんと、お前のこと苦手だ」

ニコリ笑顔で、家康様が呟く。

「はあ……」

面と向かって苦手と言われ、そうとしか返せなかった。

少しは仲良くなれたのかと思っていたのに。
『苦手』、か……。

思った以上にその言葉に傷ついている自分に、自分自身が驚いてしまう。

「そんな傷ついた顔、しないでくれる?」

如何にも迷惑そうなその顔と声に、不意に涙が込み上げてくる。

「……かっ!」

「何さ」

「そんなの、私の勝手じゃないですかっ!家康様にどうこう言われる筋合いはありませんっ!!」

涙目のままキッと睨みつけると、家康様は面白そうにニコリと笑う。

「ああ、そうだね。お前の勝手だ。だから――」

不意に近づいてきた家康様に、至近距離で睨まれる。

「『苦手』、なんだよ。どうして俺の、思い通りにならないの…?」

「なっ…んっ…!」

強引に唇を押し付けられる。
懸命に唇を閉じて抵抗しようとするも、無理矢理舌でこじ開けられる。
いつしかより深い口付けに変わり、息をするのもままならなくなる。

一体、何の嫌がらせ…!?

好意からじゃない。
それは先ほどの言動が物語っている。

もう、いい加減にしてっ…!!

思い切り、その唇に歯を立てる。
さすがにこれには驚いたのか、その唇がゆっくり離れていく。

血で濡れた唇を手の甲で拭いながら、家康様は不敵に微笑んだ。

「いい度胸してるよね。この俺を噛むなんて」

「こ、好意も無いのに、口付けなどするからですっ!!」

「好意が無いなんて、何で決めつけるのさ」

真顔で返されて、頭が混乱する。

「何でって…。私を『苦手』だとおっしゃったではないですか」

「ああ、苦手だよ」

「だったら…」

「でも、好意が無いなんて言っていない」

「は…?」

「むしろ…好きだから、『苦手』なんだよ」

至極当然のように言われ、唖然と見つめ返す。

「そんな感情が絡むことで、損得だけでは動けなくなるなんて。この俺が、ね。酷いと思わない?…全部、お前のせいだ」

だから、苦手。

そう言って、家康様はニコリと笑う。
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