家康夢

□温もりに包まれて
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寒い………。

凍えそうな位、身体が冷たい。
寒くて寒くて仕方が無い。

私、このまま凍えて死んでしまうのかな…。

遠のきそうになる意識の中、そんなことをぼんやりと思う。


「小姫、小姫!」


不意に、私の名を呼ぶ声が聞こえ。
その声と同時に、温かな何かに包まれる。

私、知ってる。

この温もり。
この匂い。

でもそれが、一体何なのかは思い出せなくて。
ただ懸命に温もりを求めて、それに手を伸ばす。

温かい。

温もりに包まれて、今度は安堵から、ゆっくり意識を手放した。


何だか、とてもいい夢を見た気がする。

温かな気持ちのまま、ゆっくりと目を開ける。

「!?」

目を開けて始めに視界に飛び込んで来たものが、人肌で目を見開く。

な、何?何で…!?

混乱しながら瞬きをすると、目の前のそれが気だるげにゆっくりと動く。

「…ようやく起きたの?」

「!!!」

その声に、人肌を見た時以上の衝撃を受ける。

この声は。
間違えるはずもない。

い、家康様!?

顔を上げると、こちらを真っ直ぐに見つめる家康様と目と目が合う。
目が合うと家康様は、こちらを睨むようにゆっくりと目を細める。

「一応断っておくけど、好きで脱がした訳じゃないからな」

え。

その言葉に、ようやく今の自分の姿を見る。

「……!!!」

下半身に薄い布地を巻いているだけという、ほぼ全裸に等しいその姿に、慌てて両腕であらわになった胸を隠す。

何何何、どうして……!?

混乱しながら、真っ赤になって固まっていると、頭上から、どこか呆れたような乾いた笑い声が降ってくる。

「別に今更隠されても、元からお前になんか欲情しないから」

「………!」

悔しいのか恥ずかしいのか。
分からないまま、俯いて唇を噛み締める。

一体、どうしてこんなことに。
混乱していて、状況が把握できない。

何で私は裸で。
同じく裸であろう、家康様の腕の中にいるのだろう。

不意に家康様の腕に力が入り、そのまま抱き締められるような形になる。

何…?

耳元に、囁きと共に吐息が掛かる。

「仕方ないだろ。……死ぬかと思ったんだから」

どこか吐き捨てるように。
ぶっきら棒にそう言う家康様の言葉に、懸命に頭を回転させる。

そうだ、私。
今日は確か川に―――

不意に、落ちたときの水の冷たさと、溺れて水を飲んでしまった苦しさが鮮明に蘇る。

溺れた後の記憶は無い。
きっとそのまま、意識を失ってしまったのだろう。


家康様が、助けてくれたの…?


凍えそうな夢の中で、温かな温もりに包まれたことを思い出す。

それはきっと、今私を包んでくれている、この温もりと同じもので。

「ありがとうございます、家康様……」

お礼を言ってみたものの、返事は無くて。
ただ、抱き締められる腕の力だけが強くなる。

「家康様…?」

顔を上げることも出来ず、家康様の顔が見られない。

「…お前は俺のものだって、ちゃんと分かれよ」

「はい…」

その冷たい口調に、ただ頷く。


「俺の許可無く、死ぬことは許さない」


抱き締められているというより、まるで縋りつかれているようで。
胸を隠していた腕を外し、その身体をそっと抱き締め返す。


とくとくとく


目の前の胸に耳を当てると、規則正しい鼓動が聞こえてくる。

生きている。
温かい。

夢の中で安堵をくれたこの温もりと匂いは、家康様のものだったんだ。

「はい……」

この安堵が、家康様にも伝わる様に。
その胸に顔を埋めて、抱き締める手に力を込めた。
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