家康夢

□温もりに包まれて
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とくとくとくとくとくとく


……あれ。

どんどん速くなる鼓動が気になり、腕の力が弱まったのを感じたところで、ゆっくり顔を上げる。

すぐ近くにあった家康様の顔が、ほんのり赤く染まっていて。
目が合うと、どこか嫌そうに顔を歪められる。

「…お前、誘ってるの?」

「え?」

「自分がどんな格好をしているか理解して、俺に身体を押し付けている訳?」

「!?」

その言葉に真っ赤になりながら、あたふたと懸命に身体を隠す。

「ち、違いますっ!だ、第一家康様、私になんか欲情しないって言ったじゃないですか…!」

「ふーん?で?お前は本当は欲情して欲しいの?」

どこかからかうように家康様はそう言い、にやりと笑って口の端を上げる。

「そ、それは…!」

違う、と言えない自分に、少しだけ驚いて。


「…少しは、して欲しいです……」


恥ずかしさから涙目になりながら、家康様を見つめてそう呟く。

私の言葉が余程意外だったのか、家康様は驚いたように目を見開く。

その顔が、真っ赤に染まっていて。


「ぶっ!!」


可愛い、と思う暇もなく、顔面に生乾きの着物が飛んできて視界を塞がれる。

「……色気」

どこか怒気を含んだ声が続く。

「そんな台詞は、もっと色気を身に着けてから言え」

晴れた視界の先の家康様は、そっぽを向いていたけれど。
隠しきれない赤く染まった耳先が、何だか愛おしくて。


「はい、頑張ります…!」


くすくす笑いながら、ニコリ笑顔でそう宣言する。

家康様からの返事は無くて。
代わりにどこか呆れたような、小さなため息だけが返された。


おしまい
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