家康夢

□美味しさの秘密
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二つ目のいちご大福を手にしたところで、その視線の方へと顔を向ける。

「…さっきから、何だよ、酒井」

「い、いえ」

「言いたいことがあるなら、さっさと言え」

ジロリと睨むと、酒井は恐縮しながらも、どこか嬉しそうに口を開く。

「随分と美味しそうに召し上がりますな。…と、思いまして」

「まあ、あいつのいちご大福だけは認めているからな」

今のところ、これ以上に美味しいいちご大福には巡り合えていない。
そう言う意味で、あいつのことはかなり重宝している。

だから何だと思いながら酒井を見ると、酒井は満面の笑みを浮かべながら頷く。

「小姫殿の愛情がたっぷり籠っていますからな!」

「ぶっ!けほっ、こほっ!」

食べ掛けの大福が、喉に詰まってむせる。

「だ、大丈夫ですか!?家康様!」

「…お前が変なことを言うからだろ。そんな変なものが入っていると思うと、食べる気が失せるんだけど」

「変なものではなく、小姫殿の愛情…」

「何?お前。そんなに俺の食欲を削いでどうしたいの?丁度頭髪の研究をしたいと思っていたから、むしってやろうか?」

満面の笑みを浮かべてそう言うと、酒井は恐縮ながら頭を下げる。

「い、いえ、それだけはご勘弁を。ただ、何分好きな人の作った愛情たっぷりの料理というものは、何よりも美味しく感じるものでありますから…」

まだ言うか。

「これが美味しいのは、ただ単にあいつが料理上手ってことだけだろ。というか、そんな話を聞くと、むしろ不味く感じるんだけど?」

「それは失礼いたしました…」

酒井は深々と頭を下げて、そそくさと部屋から退出する。

「まったく…」

軽くため息を付いて、手の中のいちご大福を見つめる。

あいつが作った大福だから美味しいとか、そんなはずがあるか。
ただ単にこれが、『美味しい大福』であるというだけに過ぎないのに。

大福を、一口かじる。

あんなことを言われた後だから、さっきよりも不味く感じるのかと思ったら。

「…美味しい」

優しくて、甘い。
いつもと変わらない味のはずなのに。

「…酒井のやつ、余計なことを…」

いやこれは、あいつが作ってくれたものだと、意識したからじゃない。

いつもよりも美味しく感じるその味に気づかないふりをして、黙々と大福を食べ続けた。



おしまい

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