夢小説(短編)

□その優しさ大迷惑
1ページ/4ページ


武田家に毒見役として来て、暫く経った頃――

慣れない環境と『男』として過ごす気疲れからか、私は体調を崩して寝込んでしまった。

薬師だ何だと、私のために気遣ってくださる幸村様からの好意をやんわりと断り、自室の褥で横になる。

お役に立てないどころか、お荷物になっているのだから情けない。
幸村様からの好意を無下にすることも、正直かなり気が引けた。
しかし、薬師になど診られたら、女だとすぐにばれてしまう。

私、一体何をやっているのだろう…。

体調が悪いせいか、気も弱くなってしまう。

頭が痛い。
身体が熱い。
きつく巻いた、さらしが苦しい。

しかし寝込んでいるからといって、さらしを取る訳にもいかない。

じわり、自然と涙が溢れてくる。

もう―――

「もう、家に帰りたいよ……」

お母さん、弥彦……

そんな自分が情けなくて、恥ずかしくて。
顔まで深く掛け布をかぶる。

ガラッ

不意に入口の戸が開いたのは、掛け布に顔を隠したのとほぼ同時だった。

突然の出来事にびくりと身体が震える。

「弥彦、具合はどうだ…?」

そっと部屋に入ってくる足音と共に、気遣わしげな声が響く。

何だ、幸村様か…。

その声に、思わずほっとする。

静かな部屋の中に布擦れの音が響き、褥のすぐ横に幸村様が座ったであろうことが分かる。

ど、どうしよう。

褥の中で困惑する。

折角見舞いに来てくださったのに、顔すら見せないなんて無礼過ぎる。
しかし、涙も乾いていないこの顔を見せるのは、正直かなり気が引けた。
熱に浮かされた働かない頭で考えても、何も妙案は浮かんでこない。

いや、でも、どう考えても、このまま顔を隠している訳にはいかないよね…。

出来るだけ顔を掛け布に押し付けて、涙をふき取るようにしてから、恐る恐る顔を出す。
顔を出したところですぐ、こちらを凝視していたらしい幸村様と視線がかち合う。

「!?」

目と目が合うとすぐ、顔を赤く染め、幸村様は視線を逸らした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ