夢小説(短編)

□夢現
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本物の菊姫を迎え、無事に武田家と上杉家の絆を深めることが出来た夜――

そのことを祝福し、急遽ささやかな宴会が開かれることとなった。


本当、今日は色々なことがあったなぁ…。

和やかな宴会の風景を眺めつつ、ぼんやりそう思う。

一度地獄に突き落とされた後、天国まで救い上げられちゃったみたい。

今ここにいる自分も、状況も……夢じゃ、ないんだよね?

ちらり左横へ、盗み見るようにこっそりと視線を移す。

すぐ左隣に座る人物は、ごく当たり前のようにその視線に気づき、にこり笑顔をこちらに向けた。

「何?」

笑顔でそう問われ、慌てて視線を彷徨わす。

「あ、いえ、その…何でもないんです…。ただその、才蔵さんの存在を、確認したかっただけというか…」

その言葉に、才蔵さんは苦笑を漏らす。

「それさ……何回目?」

「さ、さあ、何回でしょう…」

「んー。軽く、99回かな?」

「そ、そこまでしてませんっ!精々8回位ですっ!!」

「何だ、意外。ちゃんと数えてたんだ」

くすくすと笑われて、思わず顔が赤くなってしまう。

だって、あんなに遠いと感じていたのに。
一時はもう、絶望までしたのに。
今は、こんなに距離が近い。
あまりにも近過ぎて恥ずかしい位だ。

すぐ隣に、才蔵さんがいてくれる。
隣で笑ってくれる。
あまつさえ――想いが通じ合うなんて。

思い出すうちに、顔が熱くなってしまう。

本当、今日は色々なことがあって。
私の中で、処理しきれていないかも…。

「何、思い出してるの」

どこか楽しんでいるような、その口調に焦る。

「ちょ、ちょっと、今日のことを……」

相変わらず恥ずかしくて、顔は向けられない。

「ふーん。…それって、俺のこと?」

「そ、それだけじゃありません。その、色々なことを…」

内心図星で、更に焦ってしまう。

「でも、赤くなるのは俺のことでしょ?」

「!?」

「小姫は俺のこと、大好きだものね」

くすりと笑うその声に、顔が爆発してしまいそうに熱くなる。

「さ、才蔵さんだって、私のこと好きじゃないですかっ!」

苦しまぎれに、叫ぶように言い捨てる。

「うん、そうだけど。何か問題?」

返ってきたのは、至極冷静なその言葉。

恥ずかしいやら、情けないやら…。

取りあえず才蔵さんの方が、一枚も二枚も上手なのは間違いない。

「才蔵さんは、ずるいです…」

少し涙目になりながらそう言うと、困り顔の笑顔が返ってくる。

「…お前だって、十分ずるいよ」
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