夢小説(短編)
□夢現
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「ご両人、楽しんでいるかい?」
優しい笑みと共に、謙信様が現れる。
「あ、謙信様…!」
私の笑顔とは対照的に、才蔵さんは途端、不機嫌な顔になる。
「そんなに嫌な顔をせずとも、長居はしないよ?私にも二人の前途を祝福させてくれないかな」
くすくす笑い、そっぽを向く才蔵さんを見つめながらそう言う謙信様に恐縮する。
「申し訳ありません、謙信様。ありがとうございます」
「いや。相変わらず、微笑ましい限りだね」
そういえば。
先ほど頭に浮かんだものの、言わず仕舞いとなった疑問を口にする。
「どうして謙信様は、私と才蔵さんが、その…このように収まるのが当たり前だと思われていたのですか?」
「ああ、そうだね。君には分からないか」
「え?」
「きっと、後ろに目が付いていたら、すぐに気づいたと思うけどね」
「後ろに…?」
いまいち意味が理解出来ない私に、謙信様は笑顔で言葉を続ける。
「そうだな…。初めて会ったときのこと、覚えているかい?」
「あ、はい…」
当時を思い出して、ほんのり赤くなる。
転びそうになったところを、謙信様が抱き留めて支えてくれたんだよね…。
「あの時の忍者くんからの視線はね、人を殺せそうなくらいだったよ」
「え?」
「初めは武田側で、上杉を警戒しているためかと思ったんだけどね…」
そう言いながら、謙信様は苦笑する。
「披露宴で口づけを提案したときも、私を殺しそうなほど睨むから…。君がやると決心したときは内心焦ったよ。結局、無事にお流れになったけれど、もし実行されていたら、忍者くんからどんな報復を受けていたか…想像したくない位だね」
何とも意外なその事実に、思わず目を丸くする。
だってその頃は才蔵さんに…そっけない態度しか取られていなかったのに。
「そうだ。折角だから…」
「!?」
突然謙信様に手を取られ、その懐に勢い良く倒れこむ。
「君に、お祝いをあげよう。合図をしたら、すぐ振り向いてごらん?」
抱きしめられて混乱しながらも、吐息と共に耳元で囁かれたその言葉に、何とか頷いてみせる。
「…今だ!」
その言葉を合図に、思いっきり後ろを振り返る。
「!?」
すぐ目の前にある才蔵さんの表情が――今まで見たことの無いような焦った顔をしていて、思わず目を見開く。
勿論一瞬で、無表情に変わってしまったけれど。
「…何してんの」
あ、怒ってる?
でも、怒気を含んだその声も、先ほどの表情を思い出すと、どこか愛しくて。
ようやく心からの笑顔を、向けることが出来る。
「才蔵さんのこと、やっぱり大好きだなって、実感しちゃいました」
そう言ってニコリと笑うと、才蔵さんは珍しく視線を逸らした。
「…何それ。意味分かんないんだけど」
少しだけ照れた顔と口調が、嬉しくて愛しくて。
これが終わりでは無く、これからの長い道のりの始まりであるように。
この日々が続くことを、心の中で切に祈った。
おしまい
才蔵さんをクリアした記念に、ちょっと書いてみました。幸村と佐助を出せず残念ですが、謙信様の『忍者くん』をどうしても出したかったのです…。謙信様の口調、うろ覚えでかなり怪しいですけどね(苦笑)