夢小説(短編)

□君と相合傘
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「ああ、どうしよう…」

曇り空だったから、もしかしたら、とは思っていたけれど。
買い物を終えて帰ろうとした頃には、すっかり雨が降り出していた。

折角買った物が濡れてしまうのは、少々気が引けるけれど。
まだ雨脚も強くないし、走って帰ろうか。

そう思って雨空を見上げていると、不意に左に影が落ちる。

「何してんの」

そちらを振り向くとすぐそこに、傘を差した才蔵さんが立っていた。

「さ、才蔵さん…!」

驚いて、その顔を見つめ返す。

雨の日に出掛けて、体調は大丈夫なのだろうか。

そんな私の視線に気づいたのか、才蔵さんはふっと柔らかく笑った。

「そんな顔しなくてへーきだよ、小姫。以前より、大分マシになったから」

安心して微笑むと、才蔵さんが少しだけ意地悪そうな顔で笑う。

「しかしこんな日に傘も持たずに出掛けるなんて、相変わらず迂闊だよね、お前は」

「そ、それは…私は才蔵さんみたいに、正確に雨が降るかどうかなんて分からないですし…」

「そう?今日の空は、誰が見ても雨が降りそうな空だったと思ったけど」

痛いところを突かれて、苦笑いをする。

「…まあ、降るかな、とは、ちょっとは思ったんですが。降らないかもしれない方に、掛けてみたというか…」

「成程ね。今日は、迂闊じゃなくて無謀だった訳だ」

ニコリと笑ったその顔に、思わず顔が引きつる。

な、何か絶対、意地悪なこと考えてる…!!

「ま、まあ、結果的には……」

しどろもどろそう言うと、才蔵さんは先ほどの笑顔のまま口を開く。

「じゃ、頑張って帰ってね」

「え!?」

「え?」

そのまま行ってしまいそうになる才蔵さんに驚くと、驚いた顔を返される。

「何か問題?」

ニコリ笑顔のその顔を、恨みがましく見上げる。

分かっているくせに。
何で今日は意地悪なの。

「その…傘に入れて、くれないんですか…?」

「だって、傘1本しか無いし」

「それはそうですけど…」

あれ。
一緒の傘に入って帰るのを当たり前のように思っていたけれど。
実はそうでもないのだろうか。

困惑しながらその顔を見つめると、目の前の顔が楽しそうに笑う。

「ふーん。そんなに俺と、相合傘したいの?」

「そ、そういう訳じゃ…!」

思わず顔が熱くなる。
相合傘。
そう言われると、何とも恥ずかしい。

「じゃ、したくないの?」

その声がどことなく寂しそうに聞こえ、慌てて声を上げる。

「し、したいですっ!才蔵さんとっ!!」

大きな声で言ってしまってから、はたと気づく。

あれ。
もしかして私、すごいこと言った…?

「……大胆だね、小姫」

真顔で返されて、顔がこれ以上無いほど熱くなる。

「そ、そういう意味ではありません……!!」

そう言った瞬間、耐えきれないというように才蔵さんが笑い出した。
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