夢小説(短編)

□ぬくもり
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正直、悲しいのか悔しいのか、分からなかった。
ただ、まるで自分に大きな穴が空いてしまったように感じた。

虚無。

この言葉が一番、しっくりくるかもしれない。

そっと、ぬくもりのかけらもない、冷たくなった小姫の身体を横たえる。
傍から見るとまるで、眠っているように見えた。

体温も無く、呼吸も無く、鼓動も無い。
話すことも、笑うことも、泣くことも、何も無い。

これは小姫の、ただの抜け殻だ。

大事な人を失う悲しみは、アイツの時に十分味わっているはずなのに。
今度はもう、これから先どう生きればいいのかすら分からなくなる。

こんなにも、自分の中で小姫の存在が大きくなっていたことに驚く。
それに気付くのが失ってからだとは、自分自身が情けなくて仕方がない。

守り切れないのなら、初めから傍にいる道を選ぶべきでは無かった。
傍にいると決めたのなら、何よりも優先して守るべきだった。

覚悟が足りなかったのだと思う。

何も変わることなく、ただ自分の日常に彼女がいることが、彼女の隣にいる自分が心地良かったのだ。

そんな日々が、長くは続かないと分かっていたのに。
一日でも長くこの日常が続けばと、気づかないふりをした。


そんな自分が、彼女を殺した。


今更何を思っても、何も変わりはしないけれど。
それでも、自分自身を責めずにはいられなかった。
だってもう、一番責めて欲しい人は、この世にいないのだから。

さよならを、言う気力も無く。
ただその唇にそっと、最後の口付けを落とす。

ぬくもりの無いその頬が、ぴくりと動いた気がした。

幻覚でも見ているのか。
自分の願望がそうさせるのだろうか。

苦笑しながら、その顔を見つめ直す。

そっと、動くはずのない瞼が開く。

幻覚でなければ、夢なのだろうか。
驚いて、ただ茫然と目を見開いた。


「やられた……」


ほくそ笑む、雪の顔が目に浮かぶ。

それでも怒りや憤りよりも、喜びの方がずっと優っていて。

嬉しくても、涙が出ることを初めて知った。

いや、知識としては知ってたのだ。
ただ実際、自分が流すことになるとは思わなかった。

生きている。

そのぬくもりが、鼓動が、息遣いが。
全てが嬉しくて、自然と涙が溢れてくる。

ぬくもりを感じさせて。
その鼓動を聞かせて。


お前が生きているってこと、もっと俺に実感させて…?


この世界に、色が戻るのを感じた。
白黒だった世界を、月明かりが静かに照らしている。

もう、離れては生きていけそうにない。

そう思いながら、抱き締める手に力を込めた。


おしまい

夢というか、ただの自己補完というか…。
ぽえまー才蔵みたいになってしまいすみませんw
あまりにネタバレ過ぎるかなーと思い、ちょっとぼかそうとして失敗した感じ。

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