夢小説(短編)
□後ろから抱き締めて
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「あれ…?」
廊下の隅に何かが落ちているのを見つけ、そちらへと手を伸ばす。
何だろう、これ。
手に取ってよく見てみようと思った瞬間。
「!?」
不意に後ろから誰かに羽交い絞めにされ、物陰へと引き摺り込まれる。
何!?
誰!?
突然のことに、ただ目を見開く。
大きな右手に鼻と口を塞がれ。
右ひじと左腕で身体を羽交い絞めにされるように抱き締められ、両足は左右の足で挟まれているようで、全く身動きが取れない。
この手の大きさと力強さから、男の人であるのは間違いない。
身の危険を感じて身体を強張らせたそのとき、不意に視界に銀糸が揺れる。
「…静かに」
耳元で囁かれた少し掠れたその声で、その人物が誰であるかを確信する。
才蔵、さん…?
身の危険を感じなくなった代わりに。
バクバクと鼓動が激しくなる。
な、何で。
何で私、才蔵さんに羽交い絞めにされているの…?
状況が飲み込めず、ただただ困惑する。
「声、出さないで」
再び囁かれたその言葉に懸命に頷くと、右手のひらから、鼻だけは解放される。
口は放してくれないのね…。
そんなことを思いながらも、呼吸が楽になった分、いくらか気持ちが落ち着いて、思考が働くようになる。
「………!」
思考が働くようになった途端、困惑は羞恥に差し替わる。
すぐ後ろに感じる息遣いと。
布越しに伝わるたくましい胸と腕の感触。
生々しいその感触に息苦しさも相まって、羞恥で倒れそうになるのを必死に堪える。
バクバクとうるさいくらいに早く激しい鼓動が。
こんなに密着していたら、才蔵さんにばれてしまうのではないかと心配になってしまう。