夢小説(短編)

□後ろから抱き締めて
1ページ/2ページ


「あれ…?」

廊下の隅に何かが落ちているのを見つけ、そちらへと手を伸ばす。

何だろう、これ。

手に取ってよく見てみようと思った瞬間。

「!?」

不意に後ろから誰かに羽交い絞めにされ、物陰へと引き摺り込まれる。

何!?
誰!?

突然のことに、ただ目を見開く。

大きな右手に鼻と口を塞がれ。
右ひじと左腕で身体を羽交い絞めにされるように抱き締められ、両足は左右の足で挟まれているようで、全く身動きが取れない。

この手の大きさと力強さから、男の人であるのは間違いない。

身の危険を感じて身体を強張らせたそのとき、不意に視界に銀糸が揺れる。

「…静かに」

耳元で囁かれた少し掠れたその声で、その人物が誰であるかを確信する。

才蔵、さん…?

身の危険を感じなくなった代わりに。
バクバクと鼓動が激しくなる。

な、何で。
何で私、才蔵さんに羽交い絞めにされているの…?

状況が飲み込めず、ただただ困惑する。

「声、出さないで」

再び囁かれたその言葉に懸命に頷くと、右手のひらから、鼻だけは解放される。

口は放してくれないのね…。

そんなことを思いながらも、呼吸が楽になった分、いくらか気持ちが落ち着いて、思考が働くようになる。

「………!」

思考が働くようになった途端、困惑は羞恥に差し替わる。

すぐ後ろに感じる息遣いと。
布越しに伝わるたくましい胸と腕の感触。

生々しいその感触に息苦しさも相まって、羞恥で倒れそうになるのを必死に堪える。

バクバクとうるさいくらいに早く激しい鼓動が。
こんなに密着していたら、才蔵さんにばれてしまうのではないかと心配になってしまう。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ