夢小説(短編)
□後ろから抱き締めて
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「…才蔵!どこにいる、才蔵っ!」
遠くの方から、幸村様の声が聞こえてくる。
近づくにつれ、その声が怒気を含んでいるのが分かる。
怒っている幸村様に、隠れている才蔵さん…?
……才蔵さん、一体幸村様に何をしたんだろう…。
幸村様がどんどん近づいてくる。
先ほど私が気に留めた物に気付いて立ち止まるのではないかと思ったが、今はもう、廊下には何も落ちていない。
あれ?
さっきの、どこに行ったんだろう。
私は拾えなかったのだから、才蔵さんが隠したのだろうか。
「こら、才蔵っ!いい加減出て来い…!!」
そう怒鳴りながらも、こちらに気付くことなく、幸村様は通り過ぎていく。
別に私には、隠れる理由も無いのだけれど。
見つからなかったことに、ほっと胸を撫で下ろす。
でも幸村様が通り過ぎても、一向に才蔵さんの腕の力が弱まることが無く。
い、一体いつまで、この状態なのかな…。
いい加減、顔が熱くて茹で上がってしまうのではないかと思ったその時。
私を羽交い絞めにしていた腕の力がふっと抜けて、ようやく身体が解放される。
身体の自由が利くようになったことに安堵して、目の前の才蔵さんを見上げて睨む。
「きゅ、急に何するんですかっ…!!」
少し声を押さえてそう言うと、才蔵さんが小さく肩をすくめる。
「別に。たまたまお前が通り掛かるから」
何それ。
何だか私が悪いみたいじゃない。
「才蔵さん、一体幸村様に何をしたんですか?」
ムッとしながらそう問うと、才蔵さんは目線を合わせるように少しだけ屈み、真っ直ぐ私を見つめる。
「…教えて欲しいの?」
「ま、巻き込まれたのだから、知る権利はあると思います」
「そ。じゃあ…」
「!?」
不意に才蔵さんの右手が、私の左耳に触れる。
耳から顔の輪郭をなぞる様に、優しく頬から唇へと指を滑らせ、唇の上でそれが止まる。
その感触にどきりとしながら目の前の顔を見つめていると、少しだけ意地悪そうに、その顔が笑う。
「じゃ、代わりにお前さんがどうしてそんなに真っ赤なのか、理由、教えてくれる?」
「!?こ、これは、息苦しかったから…!」
「でも鼻と口を押えていたときより、口だけ押えていたときの方が赤かったけど?」
ニコリと笑うその顔は、私の気持ちをすべて見透かしているようで。
「さ、才蔵さんのせいじゃないですか…!!」
「ふーん、どう俺のせいなの?小姫」
ニコニコ楽しそうな、その顔が何だか憎い。
「し、知りませんっ…!!」
おしまい
後ろから羽交い絞めは、もしかして萌えシチュとしては間違っているでしょうか…?
後ギュと別物…?
才蔵さんは、羽交い絞めしか思いつかなかった\(^o^)/
幸村になんで怒られたのか、一体何が落ちていたのか、設定としては無くも無かったのですが、ご想像にお任せです。