夢小説(短編)

□星に願いを
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流れ星が消える前に、願い事を3回言えば願いが叶う。


修練所で耳にしたというそんな噂話を、佐助くんが楽しそうに話してくれた。

「俺だったらさ、願い事は絶対、『先生みたいに強くなりたい』だな!」

「ふふふ、佐助くんらしい素敵なお願いだね」

「うん!絶対3回言うぞ!」

そう言って佐助くんは無邪気に笑う。

そんな佐助くんの言葉に頷きながら、幸村様も笑顔で口を開く。

「3回言うことを考えると、やはり簡潔に『強くなりたい』だろ!」

「えー、幸村様もですか?」

「ああ。強くなるに越したことはないからな。男なら現状に満足せず、常に上を目指すべきだ」

「幸村様、かっこいいー!」

そんな二人のやりとりを、微笑ましく見つめていると。
不意に背後から、くすくすと笑い声が聞こえてくる。

声のした方へと顔を向けると、いつの間にかそこに笑顔の才蔵さんが立っていた。

「何だ、才蔵。何で笑っているんだ」

眉をひそめて幸村様がそう問うと、才蔵さんは満面の笑みを返す。

「いや、ね。佐助はともかく幸村は、もっと違うお願いの方がいいんじゃない?」

「違う願いって何だよ」

「例えば、可愛いお嫁さんが欲しいとか」

「よ、嫁!?」

素っ頓狂な声を上げ、幸村様は赤くなって固まった。

「嫁が早いなら、可愛い娘と恋仲になりたいにする?」

「ばっ、女関係から離れろっ!」

「離れてどうするのさ。男が好きって訳でもないでしょ?」

「そういう問題じゃないっ…!俺のことはいいから、才蔵、お前の願い事を言え!」

そう言って幸村様が才蔵さんを睨むと、才蔵さんは小さく首を傾げる。

「俺の願い事ねぇ。美味しい団子が食べたい、かな」

「えー、先生、毎日のように小姫のお団子、食べているじゃないですか」

「それもそうか。小姫の団子より美味しいのも無いだろうしね」

「……!?」

ごく当たり前のように、そう言ってこちらを見て微笑む才蔵さんに、頬が熱くなるのを感じる。

そんなに自然に褒められると、それはそれで困っちゃうな…。

真っ赤になっているであろう顔を隠すように俯く。

「他にもっと、願い事らしい願いは無いのか?才蔵」

「んー、無いね」

「何だ、つまらん奴だな」

「だって幸村、星なんかに願って叶うような願いなら、元々叶う程度の願いってことでしょ」

「それは、まあ…」

「叶うはずも無い願い事を願うほど、俺は愚かじゃないしね」

「夢の無いことを言うな、才蔵」

「そうです、才蔵さん!」

慌てて私も口を挟む。

「叶うかどうか分からなくても、願う事自体に意味があることだってあるじゃないですか!」

「…別に、そういう考えを否定している訳じゃないよ。ただ、俺はしないってだけ」

「あ…!」

何かを言うより早く、才蔵さんは姿を消してしまった。
最後に見た笑顔が、少しだけ寂しそうに見えたけれど。

気のせい、かな…?
それとも……。

気にはなったけれど。
それを確かめる術も無く。

「小姫、気にするな。才蔵の性分を考えれば、叶いもしない願い事を口に出すのは性に合わないってだけだろう」

「そう、ですね…」

私を励まそうと、優しくそう言ってくれる幸村様に小さく笑みを返す。

それでも、才蔵さんの言葉と笑顔が、胸に焼き付いて離れることは無かった。
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