夢小説(短編)
□続・愛ある仕返し
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「才蔵さん、一体いつさせてくれるんですか…!?」
才蔵さんへの耳かきが失敗してから暫く経った頃。
あれからいつも、何かしらの理由を付けてははぐらかされてしまうので、今日こそはと、気合を入れて捕まえる。
こちらを振り向いた才蔵さんは、どこか呆れ顔で口を開いた。
「…ほんと熱心だね、お前は。どうしてそんなに、俺の穴に興味があるの」
「へ、変な言い方、しないでください…!」
何となく卑猥な感じがして、思わず赤くなってしまう。
「俺の穴に入れたいとか、お前も物好きだよね」
「だ、だから、変な言い方をするのは止めてください、才蔵さん!まるで私が変人みたいじゃないですか!」
「どうしてもそんなことをしたいって段階で、相当変わってると思うけど」
「そんなことありません」
「それに俺はされるより、する方が好きなんだけど?」
「私は、してもらうばかりでは気が済みません」
きっぱりそう言い切ると、すぐに苦笑が返って来る。
「じゃ、観念して、今回の任務から帰って来た後にしてもらおうかな」
「これから、任務なのですか?」
「そ。ま、今回は、早めに帰って来れると思うけど」
「…無事に、帰って来てくださいね…?」
「心配するほどの任務じゃないよ。ところで小姫」
「何ですか?」
「お前のお願い、聞いてあげる代わりに、俺のお願いも聞いてくれる?」
才蔵さんからのお願い。
珍しいその申し出に、嬉しくなって満面の笑みを返す。
「はい、何でもっ!」
「ふーん、何でも?」
才蔵さんのその表情を見て、すぐに先ほどの自分の言動を後悔する。
こういう意地悪な顔をしているときの才蔵さんは、大抵私をからかうために、妙なことを言い出すに決まっている。
「な、何でもと言っても、その、私の出来る範囲で…」
「勿論、小姫にしか出来ないことだけど」
「は、恥ずかしいことは嫌ですからねっ!」
先手を打ったつもりが、ニコリ笑顔を返される。
「大丈夫、すぐに恥ずかしくなくなるから」
楽しそうに笑う才蔵さんを見て、思わず半歩後退る。
えええ。
何だかとっても、嫌な予感がする。
恥ずかしくなくなるってことは、要するに元々は恥ずかしいことなんだよね?
赤くなったり青くなったりを繰り返す私をひとしきり眺めた後、才蔵さんはくすくす笑いながら口を開いた。
「まあ、時間があれば本当にしてもらいたいところだけど。今回は時間が無いから、次回のお楽しみにしておくよ」
「い、一体何をさせるつもりなんですか!?」
「教えちゃったらつまらないでしょ。ま、今回は――」
ズイッと、顔と顔の距離が近づく。
吐息で前髪が揺れそうな距離で、緋色の瞳が優しく揺れる。
「お前さんからしてくれない?口付け」
「こ、ここで、ですか?」
今のところ、辺りに人の気配は無いけれど。
こんな廊下では、誰が通り掛かってもおかしくない。
「そ。時間も無いし」
「でも、誰か来るかもしれないし…」
「大丈夫、誰も来ないよ」
才蔵さんがそう言うということは、辺りに人の気配は無いのだろう。
もたもたしていたら、才蔵さんが任務に行ってしまうかもしれないし…。
覚悟を決めて、口を開く。
「じゃあ、目を瞑ってください。才蔵さん…」
意を決して、その唇に唇を近づけたその時。
「あれ、先生に小姫、こんな廊下で何してるんだ?」
お約束のように、後ろから明るい佐助くんの声が響いた。