夢小説(短編)

□告白の行方
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台所で倒れている小姫を見つけたときは、心臓が止まるかと思った。

少し目を離した隙に、何かあったのか。

慌てて駆け寄って抱き起こし、温かい体温に安堵した後、その体温が熱すぎることに気が付く。

熱で倒れたのか。

「全く…倒れるまで無理するとか止めてよね」

思わずため息をつく。

他人の事には常に一所懸命な彼女は、自分自身には驚くほど鈍感だ。

「少しはさ、こっちの気持ちも考えてよ…」

そう呟きながら苦笑する。

そんなこと、小姫が知るはずも無いのに。

知られないようにしているのは自分。
そして、そんな彼女だからこそ、どこか惹かれてしまうのも事実。

「…仕様もないね、お前も俺も」

熱い身体を軽く抱きしめ、耳元にそっと囁いた。


女中に台所の片付けを頼み、手桶に水を汲む。

小姫の部屋に戻ると、熱が上がっているのか、小姫は呼吸が荒く、うなされている。

熱を確かめるためにその額に手を当てると、少し呼吸が落ち着いたように見えた。
手のひらに感じる熱は、相当熱い。

風邪か、疲れか――。

濡らした手ぬぐいを額に乗せると、ゆっくりと小姫が目を開ける。

「あ、起こした?」

問いかけても、返事が無い。

焦点が合っていないその視線に、意識が朦朧としているのだろうことが分かる。

「寝てな」

微笑みながら、そっと髪を撫でる。

小姫は少し驚いた顔をした後、恥ずかしそうに小さく笑う。

「才蔵さん…」

「何?」

笑顔を向けると、少しぎこちない笑顔が返って来る。

熱のせいか顔が上気し、少し目が潤んでいるせいか、いつもよりもどこか色気を感じる。

この顔を見ているのが、俺だけで良かった。

安堵している自分に、心の中でだけ苦笑する。

「才蔵さん、私……」

真っ直ぐにこちらを見つめる小姫が、声を懸命に振り絞る。

何か欲しい物や、して欲しいことでもあるのか。

小姫のことだから、台所を片付けて欲しい、とか言いそうだけれど。

そんなことを思いながら、耳を傾ける。


「才蔵さんのことが、好きです……」


……え。

あまりに意外なその言葉に、思わず目を見開く。

「だから…私のこと、好きになって、もらえませんか…?」

思わず焦ってしまった先ほどの自分を反省し、表情を押し殺す。

多分、小姫は分かっていない。
熱に浮かされて、自分が何を言っているのかを。

言うべきことは、ただ一言。

「無理」

現状を示す、的確な表現だ。

「才蔵さんの、意地悪……」

その一言だけを残し、目に涙を浮かべたまま眠ってしまった小姫に、小さく笑みを向ける。

「多分、お前の思っている意味じゃないよ」

分かっていて、言ったのだけれど。
意地悪なのは自覚している。

その鼻をつまみ、小さく小姫が口を開けたところに丸薬を落とし、その口を塞ぐように口付ける。
ごくんと、小姫が薬を飲み込んだことを確認し、そっと唇を離す。

汗で頬に張り付いた髪を払いながら、その耳元に唇を寄せる。


「もう好きなんだから…これ以上好きになるとか無理」


起きているときには、言ってあげないけど。

小姫の寝顔を眺めながら、小さく微笑んだ。


おしまい
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