夢小説(短編)

□素直になれなくて
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「くそっ!開かないな…」


三成様が入口の扉をドンドンと叩いても、それは全く開く気配が無く。

薄暗い蔵の中に、二人きりで閉じ込められてしまった。

ど、どうしよう…。

予想外の事態に、内心焦って仕方が無い。

しかし、ただ焦っていてもどうにもならない。

こういうときこそ、落ち着かなければ。

第一、私の方が年上なんだし、しっかりしよう…!

焦る気持ちを抑え、心の中で決意する。

「大丈夫ですよ、三成様。ここに私たちが書物を取りに来たことは、秀吉様もご存知ですし。私たちの戻りが遅ければ、きっと捜しに来てくださるはずです」

努めて冷静にそう言う。

本当に、それが唯一の頼みの綱かもしれない。
秀吉様、気付いてくれるといいな…。

三成様は一度小さくため息を付いた後、こちらをまっすぐ見つめる。

「…それ位は分かっている。ただ、救助を待つばかりではなく、ここから出る方法を探すべきだろう」

「でも、その扉からは無理ですよね?」

「そうだな…」

暫くその扉と格闘した後、諦めた三成様は扉から離れる。

「大丈夫ですよ、安心してください。一人じゃなくて、私もいるんですから」

「まんじゅう女が、何の役に立つ?」

少し呆れたような冷たい視線に、出来る限りの笑顔を返す。

「こうやってお話するだけだって、安心するじゃないですか。一人で閉じ込められていたら、会話すら出来ませんから」

「………」

「でもここ、色々な物が置いてありますね。暗くて良く見えないのが残念ですけど」

「………」

「あー、この扉、開かなくなるなんて本当、驚きましたね。開けたときに随分ギシギシ音がするな、とは思っていましたが」

「………」

「何だか少し、お腹が空きましたね。おまんじゅうでも持っていれば良かったな。あ、ここから無事に出られたら、とっておきのおまんじゅう作りますね!」

何かを話していないと不安に押しつぶされてしまう気がして、兎に角言葉を続ける。

「…………おい」

「な、何ですか!?」

ようやく話してくれたその一言に思わずビクリとし、声が少し上擦る。

「うるさい。静かにしろ」

「すみません……」

思わずしゅんと、項垂れてしまう。

少しでも不安を取り除きたくて、努めて明るくしたつもりだったのに。
迷惑としか思われていなかったのなら、元も子もない。

うるさい、か……。

そうすると私に出来ることは、ただ黙っていることしかない。

「…………」

静寂が、辺りを包む。

薄暗い中でただ黙ってジッとしていると、余計なことばかり考えてしまう。

このまま、助けが来なかったらどうしよう。
誰にも見つけてもらえなかったらどうしよう。

じわり、涙がにじんでくる。

しっかりしなきゃいけないのに、私。
泣いたらきっと、三成様も不安になってしまう。

慌てて着物の袖で涙を拭う。
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