夢小説(短編)
□お正月
1ページ/3ページ
「ほら、立てる?」
「は、はい……」
フラフラの小姫の右腕を掴んで支える。
何とか立ち上がったものの、その足取りは覚束無い。
飲み過ぎだ、とは思ったけどさ。
そう思って苦笑する。
新年を祝う宴の席に初めて参加した彼女は、周りの浮かれた雰囲気に流されたのか、柄に無く随分と酒が進んでいた。
幸村も悪いんだけどさ…。
最初に小姫に酒を進めたのは幸村だ。
「今年もよろしくな、小姫」から始まって。
お前が来てこの城の雰囲気が明るくなっただの、料理がおいしいだの。
―――俺が、すっかり丸くなっただの。
兎に角褒めちぎって飲ませ始めたものだから、周りの家臣もすっかり同調してしまった。
止めようかとも思ったけれど、殊の外楽しそうな小姫の姿に、そのまま見て見ぬふりをした。
ま、その結果がこれなんだけどね……。
真っ赤な顔で受け答えもまともに出来ず、うとうとし始めた小姫を部屋の外に連れ出したのがつい先ほど。
何とか自力で歩いていたものの、これで廊下に座り込んだのは3度目だ。
いい加減、抱いて運んだ方が早いな。
「ひゃっ!?」
いきなり後ろから横抱きにすると、小姫は素っ頓狂な声を上げた。
「さ、才蔵さん……」
「何?」
恥ずかしいから降ろせとでも言われるのかと思い、その顔を見る。
酔っているせいか頬を赤く染め、潤んだ瞳でこちらを真っ直ぐ見つめ返される。
「あの、ぎゅって、してください…」
「は…?」
自分でもおかしいと思うくらい、変な声が出た。
驚く俺には構わず、小姫は抱いてと懇願するように手を伸ばしてくる。
「いや、体勢的に無理なんだけど」
努めて冷静にそう返す。
横抱きにしている状態で、どう抱き締めろというのか。
小姫は目に見えてがっかりして俯いた後、再び顔を上げてこちらを見る。
そのどこか嬉しそうなはにかみ顔に、少し嫌な予感がする。
「じゃあ、ちゅってしてください…!」
そんなに酒は飲んでいないはずなのに。
何だか少しくらくらしてきた。
何、この酔っ払い。
……ちょっと、可愛いんだけど。