夢小説(短編)

□お正月
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「あのさ、お前さん。ここ廊下……」

「大丈夫、誰も見ていません!」

それ、いつもなら俺の台詞なんだけど。

早くしてというように、真っ赤な顔で目を閉じる小姫に苦笑しつつ。

ちゅっ

少し髪が乱れて出ていた、額にそっと口付ける。

「ち、違います…!」

真っ赤な顔で、こちらを睨む彼女にニヤリと笑う。

「ふーん?何が違うの?」

「場所です!」

「何?お前さんはどこにして欲しかった訳?」

「そんなの唇に決まっています…!」

からかうつもりで言っただけなのに。
いつもなら、真っ赤になって口ごもるはずなのに。

いつもの小姫ではあり得ない即答に、苦笑しながらその顔を見つめ返す。

すごいね、この酔っ払い。

小姫がまた口を開く前に。

ちゅっ

その唇に、軽く触れるだけの口付けを落とす。

「ほら、これでいい?」

「はい…!」

本当に嬉しそうに笑う小姫に釣られて微笑みそうになったところで、顔を引き締めて口を開く。

「いい加減、お前さんの部屋に連れて行くよ」

「……嫌です」

「は?」

意外な拒否に、その顔を見る。

「じゃ、どうする気?」

「才蔵さんの、お部屋に行きます…」

そう言って小姫は、ギュッと俺の着物を掴む。

所詮、酔っ払いの言うことなんだけど。

「お前さん、意味分かって言っているの?」

「分かっています。それはその……」

そっともたれるように、小姫は俺に身体を預ける。

「ずっと、才蔵さんの傍にいるってことです…」

正直こんな酔っ払いに、手を出す気なんて更々無いけれど。
この優しい温もりと、離れがたいとも思う。

「…明日、酔っぱらっていて覚えていませんって言っても知らないよ?」

「大丈夫です」

「そ」

多分、全然大丈夫じゃないだろうけど。

「じゃ、望みどおり連れて行ってあげる」

方向を変え、俺の部屋の方へと足を進めた。
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