夢小説(短編)

□愛しの君への贈り物
2ページ/3ページ


「開かない…」

呟きながら、小箱を手にため息をつく。

あれから幾度と無く開けようと試みたけれど、一向に開く気配が無い。

「順番通りに細工を動かさないと開かないって、佐助くんが言っていたけれど…」

何通りも試してみたはずなのに、全然開かない。

何通り、何十通りと試して、もう何をどう試したかの記憶すら危うい。

「ここをこうして、これを動かして…ああ、こっちかな?これを…」

ぶつぶつ言いながら、ここ数日続けてきたことと同じことを何度も繰り返す。

「もう、いい加減開いて…!」

祈りを込めて最後の細工を動かす。

カチッ

今まで聞いたことの無い、何かが動いた音がした。

もしかして…。

恐る恐る、蓋に手を掛ける。

「……!」

開いた…!

嬉しくて飛び上がりたい気持ちを抑え、箱の中を覗き込む。

「あ…」

箱の中には、薄紅色の小花が複数あしらわれた、小さな髪飾りが入っていた。

「可愛い…」

箱を置き、髪飾りを手に取って眺める。

この箱に入っていたということは、私にってことでいいのかな?

聞きたくても聞けない。
お礼だって、言いたくても言えない。

「もう、私の物ってことにしちゃいますからね?」

少しだけ、冗談めかした口調でそう言う。

「いない人が悪いんだから。苦情は受け付けません!」

「ふーん…?」

「!?」

返ってくるはずの無い返事が返って来て、慌てて後ろを振り返る。

「さ、才蔵さん!?一体いつ帰って…」

「ついさっき」

「でも、1年近くかかるって」

「そんなに長い任務なんてやってられないでしょ」

「本物…?」

夢を見ているような気がして思わずそう呟くと、少しだけ困ったような笑みが返される。

「偽物に見える?」

慌てて首を横に振ると、才蔵さんは笑顔で腕を広げる。

「じゃ、触ってみる?」

その言葉を合図に胸の中へと飛び込むと、強く抱き締め返される。

「才蔵さん、会いたかったです…」

「うん」

「もっとずっと、会えないじゃないかと…」

「うん」

「任務だから仕方ないって分かっているけど、やっぱり寂しくて…」

抱き締める腕の強さが弱まったのを確認し、少しだけ身体を離してその顔を見上げると、思ったよりも近くにあった才蔵さんの顔が微笑む。

「うん…。分かったから、もう黙って」

言い終わると同時に重なった唇は、久しぶりの感触を味わうように何度も触れた後、ゆっくりと離れていった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ