夢小説(短編)

□それが私の好きな人
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「アンタの好きな人って、家康様でしょ」


カマをかけるようにそう言う。

そうだと認めてくれれば、諦めもつくと思った。

「え…」

驚いたように目を見開き、小姫はそう呟く。

どうして知っているの。

そんな顔をすると思ったのに。

……あれ?

小姫のその表情に、俺自身も驚く。

何でそんなことを言うの?

意外そうなその顔が、そう言っている気がした。

「違う、の?」

思い切ってそう問うと、すぐにこくりと頷かれる。

「うん…。虎松くん、どうしてそう思ったの?」

「この頃のアンタ、仕事をするのがとっても楽しそうだったから。その…」

言うべきか否か少しだけ悩み、一拍おいてから口を開く。

「好きなやつ、いるのかと思って」

「それが、家康様かなって?」

「うん…」

素直にそう認めると、くすくすと楽しそうに笑われる。

「違うよ、もう」

そう言う小姫の顔は、誤魔化しているようにも嘘をついているようにも見えない。

本当に違うんだ。

そう確信して、ほっと胸を撫で下ろす。

「でも、半分は当たってるかな」

「え?」

「いるよ、好きな人」

「え……」

浮上した気持ちが、また落ちていく気がした。

家康様以外の好きなやつなんて。
一体誰?
全く見当がつかない。

「どんなやつ?」

思わずそう口にしてしまい、ちょっとだけ後悔する。
あまり詮索すると、どうしてと聞かれかねない。

小姫は暫し悩んだ後、少し照れたような笑顔をこちらに向ける。

「優しくて、格好良くて……その、とても強い人だよ」

何、その完璧な男。
本当にそんな男がいるのなら、太刀打ち出来そうにない。

「あ、あと、笑うと可愛いかな!」

どう考えても、そう言って笑う小姫の方が可愛いと思うけど。

そう思う自分自身に苦笑する。

男に可愛いはどうかと思うけれど、ますます敵いそうにない。

「何か、完璧過ぎ。そいつ、欠点とか無いの?」

「欠点?うーん…。やっぱりその、鈍いところ、かな?」

「鈍い?」

「うん。私の気持ちとか、気付きそうに無い感じ」

「ふーん、そうなんだ」

ちょっとだけほっとする。
それなら両想いになるとしても、まだ先のことだろう。

「やっぱり私から、気持ちを伝えた方がいいと思う…?」

うん、そう思う。

そう思ったけれど、言えなかった。

そう伝えて小姫が告白してしまったら、すぐに両想いになってしまう気がして。

「それは、男に言わせるべきじゃないの?」

だから、思ったことと逆のことを言う。

鈍い男ならきっと、言わせるのは至難の業だろう。

小姫は暫し考え込んだ後、うんうんと納得したように頷く。

「それじゃ、その、虎松くん」

「何?」

真っ直ぐにこちらを見つめる小姫に、思わずドキリと胸が高鳴る。

「私のこと、どう思っていますか…?」

「え?」

意味が理解出来ず、ポカンと小姫を見つめ返す。

ただ真っ直ぐにその顔を見つめていると、小姫のその顔が、どんどん赤く染まっていく。

え、待って、それじゃ。
今までのって、全部、その。

理解した途端、バクバクと鼓動が壊れそうな位速くなる。

「…ちょっと褒め過ぎ、じゃない…?」

ようやく絞り出すようにそう言うと、照れたように眉を下げ、小姫は笑う。

「私はそう思うの。だって……」


誰よりも、虎松くんが大好きだから。


真っ赤な顔で笑う小姫が、この世の誰よりも可愛く見えて。

そう思う俺もきっと、誰よりも小姫のことが好きらしい。

頬の熱さを感じながら、恥ずかしさと、それ以上の嬉しさを入り交ぜて、それを伝えるために、ゆっくりと口を開いた。


おしまい

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