夢小説(短編)

□頬ににじむ涙の色
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「お前さ…もし、俺が死んだらどうする?」

「え?」

唐突なその質問に、思わずポカンとその顔を見つめ返す。

「犬千代」

「何だよ」

「何か変な物でも食べた?」

「食べてねえよ。つーか、何でそうなるんだよ」

ギロリとこちらを睨むので、表情を変えず、真っ直ぐにその顔を見つめ返す。

「だって、真面目な顔で冗談言うから」

「は?何で冗談なんだよ。冗談なんか言ってねえだろ?」

「冗談でしょ。だって犬千代、殺しても死なないじゃない」

「ちょっと待て、俺は化け物か!?お前こそ、真顔で冗談言うの止めろ」

「冗談じゃないよ。本当にそう思ってるから」

「…余計タチがわりぃな。俺だって、殺されたら死ぬっつーの」

「嘘ばっかり。昔、泥団子食べてもピンピンしてたじゃない」

昔、一緒におままごとをしていた時のことを思い出す。

あの時は本当、ビックリした。
泥団子を食べたことも。
それ以上に、そんな物を食べておきながら、お腹を壊さなかったことに驚いたものだ。

「ああ、あれな…。お前、「死んじゃうから止めてー」って、ピーピー泣いてたっけ」

懐かしそうな表情でそう言い、犬千代は小さく笑う。
それがどこか照れ臭かったけれど、出来るだけそれを出さぬよう、顔を引き締める。

「あの頃はまだ、犬千代も普通の人と同じで、死ぬと思っていたからね」

「今だって死ぬっつーの」

ムッとしながらそう言う犬千代に向けてくすくす笑うと、はあと小さなため息が返される。

「ま、そこまで言うならお前、もし俺が死んでも泣くなよ?」

「泣かないよ、絶対」

どうしてそんなことを言うの。

そう思いながら、その顔を睨む。

「そっか」

どこか苦笑にも似た笑みを返され、余計にムッとする。

「…怒るに決まってるでしょ」

「は?」

「怒るでしょ、それ。私より先に死ぬとか許せないもの」

泣いてなんかあげないんだから。

……だから、死なないでよ。

口に出さない代わりに睨み続けると、犬千代の顔がふっと優しく笑う。

「何だよ、それ」

「当たり前でしょ?」

「そっか」

「そうよ」

ようやく理解したらしい犬千代が、私の頭をポンポンと叩く。

「そうだな。お前残して死んだりしないから、安心しろよ」

大きな手のひらが、安堵させるように優しく触れる。

当たり前よ。
今更、何言っているの。
.
そう言いたかったのに何故か、言葉に出来なくて。


「……泣くなよ、小姫」


少し困ったような顔で、犬千代が優しく笑うから。

我慢するはずだった涙が、ポロポロ零れ落ちてくる。

「な、泣いてなんていないからっ!もう、犬千代の馬鹿!筋肉馬鹿っ!」

「き、筋肉は関係ねえだろ、筋肉はっ!」

涙を誤魔化すようにべえと舌を出すと、少しだけ呆れた顔の、優しい笑顔が返された。


おしまい

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