第1章

□No.1
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少女は、ゆっくりと瞼を上げた。
すぐ見えたのは、埃を被った床。
少女が起き上がると埃が宙を舞う。
埃を吸い、少し咳き込んだ。
ここは何処だろうと辺りを見回すが、カーテンで閉めきっているのかとても薄暗く、微量の光しか漏れていなかった。
カーテンを開けようとした時、私は誰?と思った。



ここが何処なのか、分からない。


名前も分からない


記憶喪失……それだけはわかった



けれど、日常の生活など基本的なことは覚えている。
どうやら、日常生活には問題ないが過去の記憶は無くしてしまったようだ。
普通なら記憶を無くせば混乱してしまうが、この少女は違った。
まずは、カーテンを全て開け、自分のことに関するものを探した。





すると、テーブルの上に埃を被った紙が散らばっていた。
その中の一つの紙を取り、読み上げる。


「明石……薫…」


高校受験合格書の欄にその名前が書かれてあった。
これで、自分の名前が明石 薫だということがわかった。
他の紙も見てみると、高校のパンフレットなどがあり、その中には、まだ未開封の分厚い封筒も置いてある。
さすがの薫もこればかりは慌てた。
いつの間にか仮死状態のようになっており、気がついた時には髪は伸びすぎ、体は全く成長していないのか幼く見え、さらには高校に入学しなければいけない。
急がなくては!と慌てて玄関を開けると、目の前に大きな段ボール箱があった。
段ボールの中身を見ると、制服や教科書などが入っている。
これは既に買って置いたものだろう。
記憶を失う前に準備が済んでいてよかったと胸を撫で下ろした。
もし、今の薫が準備をすることになっていたのなら最低でも数日は掛かっていただろう。
その内、高校初日から登校すら無理な状況になっていたかもしれない。


それだけは絶対嫌だ


初めての高校生活が台無しになってしまう


記憶を失う前の私は、何をしていたのか未だにわからないけど、今やるべきことをしよう


と気合を入れ、掃除を始めた。
部屋を掃除しているとタンマツがあった。
もしかしたら手掛かりがあるかもと調べてみるが、メモリーカードには何のデータも入っていなかった。
掃除をしながら探索するが大きな手掛かりは無く終わった。
結果、部屋にあったのは、名前などの個人情報と……奥の物置に段ボールいっぱいのインスタント食品があるだけだった。
だけど、これなら食べ物が無いときは困らないし、水道も電気も通っている。
部屋の大きさは、調べたところ六畳くらいでキッチンもある。
トイレとお風呂は一緒。
押し入れには布団が入っていた。
ここはアパートの部屋のようで、全て一人分のものしか置かれていなかった。
けれど…何故か、誰かと住んでいたような跡があった。
薫が眠っている間に出て行ってしまったのだろうか…
でも、誰かと暮らしていた証拠が無いため、気にしないことにした。
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