捧げもの

□勘違いも程ほどに
1ページ/2ページ



私は木ノ瀬梓という人が好き
同じ歳で少し低めの身長でカッコ良いのにどこか可愛らしくて…あげるとキリがないけどとにかくそんな梓が大好きなのである


けどもぉ




「何?」

『いや、別に』

「?」




恐らく梓は月子先輩に惚れている
勝ち目がないのは分かっている。でも諦めきれない。恋ってそういうものでしょ?
だから好きでいる
迷惑を掛けなければいい訳だし




「変な顔」

『ふぁ!?』

「(笑)」




ほっぺを掴まれ伸ばされる
それはもう上下左右といった感じに




『あじゅしゃのせぇいれそ!?』
(梓のせいでしょ!?)

「ごめん、何言っているか分からないや」

『痛っ!…全くもう…』




赤くなったであろう頬を労り優しくさする
月子先輩にはこんなことしないくせに…いや、例えしていたとしても見たことないし見たくもないけどね




「ほっぺ真っ赤」

『梓のせいですぅー』

「僕の、せい…」

『?』




梓はふと何か考える素振りをする
しかしそれも一瞬のこと、すぐに笑顔を見せる




「僕のせいで顔が赤くなるって何か良いね」

『何かって何?』

「え?恋人っぽくて良いねと思って」

『!?』




天然タラシ発動!!
月子先輩という人がいながら私をたらし込もうとするなんて…なんてやり手なんだ!梓ったら




『ま、まぁ、実際は照れたわけでも恥ずかしかったわけでもなく物理的に赤くなったんだけどね』

「名無しさんはつれないなぁ」

『それはどういう意味かな?』

「さぁ?自分で考えなよ」




こんな風に気軽にお喋り出来る距離
それだけで幸せだった


そう、幸せ


だった…






──…






『我が儘になったもんだなぁ私…』




最初は良いと思っていた
諦めていた節があったことは否めないけど
でもやっぱり好きなんだもん!




『(お願い!月子先輩早く自分の教室に戻って!)』




自分がどれだけ醜いかなんて分かっている
でもそう思わずにはいられなかった
月子先輩はただ部活のお知らせをしているだけなのに…それだけって分かってる




『(梓、嬉しそう…)』




胸がズキンッと音を鳴らした
やっぱり月子先輩のことが好きなんだと思わせるような満面の笑み
私には見せたこともないような…
考えると落ち込んできた




「名無しさん?」

『…』

「何落ち込んでいるの?」

『あれ、月子先輩は?』

「戻ったよ」

『そっか…』




少しホッとしてしまった
そんな自分に自己嫌悪
何て嫌な奴だろう…嫉妬なんて醜い
いやいや、嫉妬するなんておこがましい
分かっていたことじゃん。月子先輩には敵わないって




「ねぇ名無しさん、さっきからどうしたの?」

『んーん、何でもないよ』

「…」

『何でもないよ』

「なら良いけど…」




私のことなんて放っておいて欲しい
顔を腕に埋め、寝る体勢をとる
すると梓は優しく髪を梳くように頭を撫でてきた
これだけで私の心臓は先ほどとは打って変わってドキドキと高鳴り出す


止めて欲しい放っておいて欲しい


期待させないで欲しい




「名無しさん?」

『…何よ』

「どうしたの?」

『何でも無いってば』

「そんなあからさまに落ち込んでいますオーラをはなっているくせに」

『…』

「…」




顔を上げ梓と目を合わせる
未だに梓は私の頭を撫でている
とても優しい


でも


私にだけじゃない


きっと


月子先輩にも


同じように


いや


もしかしたら私以上に


優しい


それが…


私には


辛い




…ないで

「え?」

『優しくしないで』

「どうして?」

『別に良いでしょ!私の事なんて放っておいてよっ!!』




私は立ち上がり教室を駆けだした
次の授業は休もう
頭を落ち着かせるためには1人にならなければ






.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ