長編

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私は優人のことを恋愛として見ていない。だけども、自分のオモチャが奪われた時の小さな子供ように、イライラしてしまう
分かってる。優人が私の彼氏なんかじゃないってこと
分かってる
もう一度、いや、何度でも言おう
私は優人のことを恋愛として見ていない
好きではあるがそうじゃない。好きであったのは過去のことだ




夜久「私、五十嵐くんのこと…」

『…』




ダメ
分かってる
イライラしては駄目
月子は私の友達なんだから。まして、私は優人と付き合っている訳じゃないんだから


いつか来るだろうな、とは思っていた
だって明らかにそうだったから
とうとう相談を受けてしまった




夜久「五十嵐くんって、どんな人が好みなのかな?」

『う〜ん、長い付き合いの私でも分からないなぁ』

夜久「そっかぁ」




月子だよ。とは言えなかった
あれだけ周りが噂をしているのに気付かないのか、と少しばかり呆れてしまう


恋する乙女は何と可愛いことか
はぁ…と溜め息を吐く姿さえも可愛い。月子の場合、元が良いとも言えるが




夜久「名前ちゃん!」

『はいぃ!?』




ギュッといきなり手を掴まれ真剣な瞳で見つめられる
あまりの勢いに自慢のポーカーフェイス(笑)が破られてしまった




夜久「協力してくれる?」




胸のあたりがツキンと少し痛んだ
だけど、それも一瞬
私は掴まれた手を月子の指と絡ませるように握り直し




『もちろんだよ!私に出来ることがあれば何でも言って!』




花が咲いたように笑顔になる
そんな月子を見て、再度私は思うのだ
恋する乙女は本当に可愛いんだなぁ…と






──…






『今の私に好きな人はいない』

七海「…」

『恋愛もしばらくはしなくて良いって感じ』

七海「なぁ」

『ん?』

七海「何でそれを俺に言うんだ?」

『何でって、一応彼氏じゃん』

七海「その彼氏を前に言うことじゃねぇだろ」

『?』

七海「彼氏扱いしてねぇ」




一応彼氏だからこそ言っているんだけど…本当なら優人に言っているところを七海に話しているんだから、充分彼氏扱いしているつもりだ
大体、彼氏扱いって何?
恋愛初心者とも言える私が分かる訳ないじゃん




『まぁ取り合えず、贔屓はしてるよ』

七海「はぁ?」

『彼氏と友達で接し方は変えてるつもりなんだけど』




一応彼氏とは言え、同じ接し方だったらダメだと思って優人くらいの接し方にランクアップしたつもりだったんだけど…やっぱりいきなりは変わらなかったかな




『(それにしても…)』




周りの奴らに意識がいってしまう


恋人同士になったから2人の時間を(東月により半強制的に)過ごそうとなり放課後、他愛もない話しをしていた
それが今現在のことなんだけど




『(七海は気付いてないみたいだなぁ)』




恐らくあの時いた男子たちだろうことは理解出来た
だけど、七海が何故気付かないのかが分からない。ここまで熱い視線を送られているというのに
あれか?月子みたいに自分のことに対しては鈍感になるってやつ?
幼馴染みだからって似た者同士にならなくても…




『(さて、どうしようか)』




七海はいまだに接し方について不満を持っているらしく、ごちゃごちゃ言っている
男子たちは七海に熱い視線、私には殺気ともとれる熱い(本来の意味とは違う)死線を送っている
私はというと…




『よっしゃ、一肌脱ぐか』

七海「な、何だよいきなり」

『七海』

七海「んだよ?」

『怒らないでね』




七海の顔に顔を近付ける
それはもう、あと一歩でも動けばキスしてしまいそうな程に
男子たちから見れば確実にキスしているように見えるだろう
しばらくして顔を離すと七海の顔は真っ赤になっていて


可愛い


と思った
七海が男にモテるのも頷ける




七海「なっ、おま、名字っ」

『なに?』

七海「なに?じゃねぇだろ!!何であんなっ」

『怒らないでよ。それに、』

七海「?」

『友達には、あそこまで顔を近付けないよ』




つまりは、彼氏扱いしましたよ。と言っている
七海も意味を理解してくれたらしく言葉に詰まっている。可愛い




『私がするのはここまでだよ』

七海「?」

『口には彼氏からしてほしい』

七海「っ!!?」

『なんてね』




七海の反応があまりにも可愛かったのでそんな冗談を言う
それがいけないと言えばいけなかったのだろう
七海に火を点けてしまったのか、頬を両手で固定され七海の顔が近付いてきた
とっさのことに驚いて、思わず目を瞑る




七海「バーカ」

『痛っ!』




デコピンをもらってしまった
七海は真っ赤になっている顔を隠すように、さっさと帰ってしまった
1人残された教室でおでこをさする
いつの間にか男子たちも居なくなっていたようだ


まさか
自分も顔が赤くなっていたなんて
誰が分かろうか






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